第4話 方針検討
部屋では椅子に座って居眠りをする先輩が座っていた。本を閉じたと言う事は読破したと言う事だろうか。
『また驚く仕草が見たい』
そんなささやかな悪戯心でまつ毛を触ろうとした。
すると先輩は寝ぼけた言葉の様なものを発しながら、私に抱きついてきた。悪戯をしようとした仕返しにと言わんばかりに私の胸元に顔を押し付けてくる。明らかに起きていると確信した私は、先輩の肩を掴んで引き離そうとしながら叫ぶ。
「いい加減に起きてください!」
「むにゃ…むにゃ…」
いつまでも寝たふりを続ける先輩は椅子に腰かけて私の抱きついているのだから、非常に不自然で辛い姿勢になっている筈だ。だが、私も立ったまま座る事も出来ずにいるのだ。これが普段なら問題ないのだが、好きな先輩が抱きついてきているのだから足の力が抜けていくのがわかる。床でいいから座って楽になりたかった。
いい加減限界を悟った私は先輩の背中を平手で叩きながら叫ぶ。
「おーきーてーくーだーさーいー!」
「ん…」
やっと起きたと思ったら、そのままベッドに押し倒されて私を抱きしめながら再び寝てしまった。足掻いても先輩の力は強くて引き離せない。だけど、今の状態であれば姿勢的に辛い事はないのだから、そう無理にはがす必要はないと思った。それよりも先輩と一緒にベッドに入る事自体を改めて認識した時、興奮と緊張が一気に押し寄せてしまい意識が吹き飛んだ。
せめて、もうちょっと段階を踏んでほしい。
窓の外から夕陽が差し込んできた頃、ようやく目が覚めた。今日、何度寝だったのだろうかと思いながら先輩の表情を確認するとまだ寝ている。さすがに腕の拘束はほどけていて、すんなりと脱出できたのは幸いだった。
私も本の続きが気になっていた。先輩に教えてもらうだけでなく、自分から読み進むのも良いと思って2ページ目を開いた。
『転生ボーナス ギフトについて─
二人にはギフトを授ける、大きい方には魅了、小さい方には好意。魅了は特定の相手を自分に魅入る事ができ、好意は誰からも好かれる様になる』
小さい方ってなんだよ、その表現どうなのかと少し憤慨してみるた。先輩はホストの真似事とか言ってたけど、実際のホストが魅了持ちとか大変な事になりそうだ。私の方は好意だから、今日みたいな色々物を貰えたり甘やかされたりするという事かと想像していた。
『精神の変化について─
新しい肉体に適応する為に精神は次第にその肉体に適した変化が起こる。いつまでも過去の性別を引きずらない為の処置である』
この一文に対してすこし引っ掛かった。以前だったらあの時イルティーナちゃんと会う事をせずに逃げていたと、自信をもって言える。引っ込み思案な自分を変える機会だと思えば良い事だけど。過去の思考を全否定されそうな気がして少し寂しくもなった。
先輩はどうなんだろう、やはり変化があるのだろうか。
そしてその変化した先輩を私は好きでいる事ができるのか。
それにしても先輩はよく寝ている。起きていれば変化の有無なんて笑いながら答えてくれそうなのに。というか私の変化を受け入れてくれるなら嬉しい。
少し不満気に頬っぺたをつついてもやはり起きない。
もしかして昨晩寝ていなかったのかな?
ホストの真似事…魅了…夜通し…。
まさか!そこまでの事をしかも初日にはできないと信じたい。
いやいやいやいや、さすがにそこまで想像してしまうと失礼だよね。
だけど、全く不安はぬぐい切れなかった。心の底ではヤッてるという疑惑が少しずつ確信になろうとしていた。
「まぁた余計な事考えてるでしょ」
先輩が起きていた。少し意表をつかれて呆気に取られてしまった。
そうだ、私は今日起きた事を話したかったんだ。そうやって変な疑惑や自分の不安を全て棚上げした。先輩と一緒に話す時は楽しい事を話したい。私達にはきっとその時間が大事だと思うから。
「…考えてないですよ?そうだ、聞いてくださいよ、村を歩いてたら色々な物を貰ったんですよ」
カバンの中から貰った物を誰から貰ったか説明しながら出だしていった。その様子を先輩は微笑んで聞いてくれた。そして、最後にサプライズで喜ばせようと思って紙幣を出した瞬間手が止まった。何故か出してはいけない気がしたのだ。これは高額紙幣で働いたわけでもない私が持っていればどう思われるのかと考えた。女が見知らぬ土地で簡単にお金を稼ぐ方法は─
別に後ろめたい事がある訳じゃないのにダメな気がする。実はこれが女の勘という物かもしれないなんて冗談を考えていたが言える訳がなかった。
「ミハルも頑張ったんだね、偉いなぁ。じゃあ私も読破した結果有用な情報を教えてあげよう」
ぱちぱちぱち
先輩が話題を切り替えてくれた事に安堵して、つい大袈裟に拍手をしてしまう。
「まずこの本は、神との会話ツールになっている。この本に書くことで対話できるのだよ…その顔は信じてないね?」
「いえ、信じてます、先輩はこんな時に嘘をつかないですよね」
「うん、まぁ、そうだがその信頼感を面と向かって言われると照れるな。それで、この本はゲームによくあるステータスの確認とインベントリの用途も兼ね備えてる。さらにはこの本自体には盗難防止の為なのか私達にしか触れないようだよ」
「例えば、本をカバンに入れて盗まれた場合はどうなるんですか?」
「実験としてそこは大事な所だね、まぁ実際にやってみたんだけど、面白い事に自分の服の中に転送されてきたんだ」
先輩は服のお腹のあたりを膨らませて表現した。
「高機能というか不思議機能な感じですね~」
「で、この本は今2冊ある。1冊はミハルの物だよ。
色々実験したくてね、読み比べもしてみたんだけど全く同じだったね」
先輩は一冊を私に渡すと、最終ページを見る様に言った。
そこにはステータスが記載されていた。
■ミハル 性別:女 年齢:13
職業なし レベル:1
HP:20/20 MP:980/980
【物理】近接攻撃:+0 遠隔攻撃:+0
近接防御:+0 遠隔防御:+0
近接支援:+0 遠隔支援:+0
【魔法】近接攻撃:+0 遠隔攻撃:+0
近接防御:+0 遠隔防御:+0
近接支援:+0 遠隔支援:+0
【精神】近接攻撃:+0 遠隔攻撃:+0
近接防御:+0 遠隔防御:+0
近接支援:+0 遠隔支援:+0
【バシップ】なし
【スキル】なし
【スペル】なし
【加 護】創造主(不老)
【ギフト】好意
※各パラメータ付加値は職業選択後再設定される
年齢下がってます…どうして?そして不老、加齢しなくて一生結婚できないとかないよね??MPが高いのは魔法職に適正があるのかな。攻撃や防御値が0ってどれだけ無力なんだろう?あまり見る意味はなさそうだと思った。
「補足すると、肉体の基本的な強さというのはそのステータスには現れないらしい。見えるのは加算値だけみたいだね。筋トレとか魔法の勉強とかすれば下地が強くなるけど、表面上は見えないといった感じかな?私のと比べるとHPは私の方が10倍くらいあるけど、MPはミハルの4分の1以下だな。それで、冒険者になるか別の手段でお金を貯めて安全に暮らすかという大まかに2択になるんだけど、ミハルはどうしたい?」
「護身の為に戦えるようになった方が良いと思うけど、無理に冒険に出る事は無いと思うかな?インベントリの性能次第じゃ商人として活動すればかなり儲かると思うんですよね。ミズキさんは戦いたいですか?」
「折角そういう世界に生まれ変わったんだから戦ってみたいのはあるね。でもそれは下地があってこそだと思う。少し離れた街に冒険者訓練校があるんだけど、入ってみるかい?」
「はい、こんなステータスをみるとやってみたくなりますよね」
あまり興味無さ気に言っておきながら、レベル表記を見ただけで柄にもなく興奮していた。新しいゲームをやってる感覚なのかもしれない。
ミミナミさんの伝手で魔法や剣術を教えてもらえると聞いて、さらにやる気が出た。
その後、夕食を美味しく頂き、夜が来た。
私にとって初めての夜だ。
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