第4話 買い物
魔都に3人の人影が映る。
一人は、額にツノを生やした魔族。
呪印を全身に刻む男は、四天王より強い魔王城の門番として、有名であった。
そして、男の手には鎖が2つ。
——その先には、首輪をつけたペットが2匹。
桃色だった髪が、恐怖とストレスで白髪に変わったリナ。
金髪のロングヘアが美しい、盲目の少女ロキ。
1人と2匹は、魔都の一角、ペット通りに来ていた。
名前の通りペットの洋服店から、飲食店まで多彩に揃っている。
特にここは、人間専門店が多いらしいな。
二人はボロ切れしか着てないから、何か買ってやるか。
通りを見れば、他の魔族に飼われている人間の姿が見える。
ただ、ほとんどの人間は目が死んでいるか、壊れていた。
それを見て、リナは怯えだす。
「……魔族なりに、可愛がっていると思うぞ」
「あれでですか……」
「犬や猫とは、また違うという事だな」
魔族は可愛がるというより、遊ぶという感覚なのだ。
——俺も随分、その感覚に慣れてしまったか?
リナの反応を見て、めんどくさいなと思いながら、人間用の洋服店に入る。
ロキは、気配に敏感なようで、微妙な顔をしていた。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは、猫型の魔族であった。
狡猾な彼らは、直接戦闘より商人に向いている者が多いらしい。
「そこそこの服と肌着を、この2人に」
「かしこまりました。 お嬢様方、こちらへどうぞ」
荒っぽい魔族には、なかなか見られない動作で、2人を案内しだした。
——俺は、こういうのは苦手だ。
座って待っているか……。
…
……
………
「ありがとうございましたー」
猫型の魔族に見送られ、店を出る。
魔王城の門番の給料としては、なかなか痛い出費であったが、
「ロキ可愛いわよ!」
「この肌着、柔らかい」
「私の服も、可愛いよね?」
上機嫌になった2人を見て、悪くないと思うのであった。
「ねぇ、可愛い……よね?」
——リナは昔のようだな。
嫌な事があるとすぐ泣き言を言うくせに、嬉しい事があるとハイテンションになる。
「ああ、可愛いよ」
そして、俺かアランが、彼女の相手をするんだった。
フレイムは、そのやり取りをいつも遠目で楽しんでいたな。
昔を懐かしむ。
——もう戻れない過去を……。
「ねぇ、ご飯が食べたい」
リナは、飲食店を指差す。
「ロキも、お腹すいたよね?」
「……すこし」
二人のアピールが、俺へと向けられる。
あと、財布にいくら入ってたかな。
足りなければ、カツアゲか……。
いやだが、魔都でそれをするのも……。
そう俺が店の前で悩んでいると、リナが首輪の移動範囲ギリギリまで鎖を伸ばして、店の中を覗いていた。
そして、振り返った彼女は一転暗い表情で、
「……やっぱり、家で食事が良いです」
——そう呟いた。
この店は、あまり美味そうな飯じゃなかったのか?
俺も通う、人間用の食事を出す店なんだがな?
何を見たのだろうと、俺も店の中を覗く。
店の中は、いつもの光景であった。
魔族がテーブルの上で、食事を食べている。
ペットはテーブルの下で、這いつくばるように食事を食べている。
——見慣れた、いつもの光景であったが、
「そうだな。 何か買って家で料理をしよう」
人間にとっては、いつもの光景でない事を思い出した。
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