第2話 再会

 魔王城


 あれから、7年の月日が経っていた。


 無我夢中で、人間の国を抜け出した俺は、魔族の国に逃げ込んだ。


 生きる為に、力が必要だったからレベルを上げた。

 経験値の為なら、人も魔族も魔物も関係なく殺した。


 額から伸びたツノと、身体全体に刺青のように広がった呪印を見て、俺を人間と思うやつはいないだろうな……。


 昔を思い出して、懐かしむ。


 今の俺の仕事は、魔王城の門番だ。


 仕事を求めて、魔族の首都 魔都に来た時に、四天王をぶちのめして得た仕事だ。

 力が絶対の魔族故に、四天王の椅子を用意されたが断った。


 幹部というのは、性に合わないな。

 俺には、この仕事で十分だ。


 遠くから、魔王城に向かってくる一団が見える。

 四天王の一翼を担う、不死王の軍団だ。


「おかえりなさいませ」


 不死王ハーデスに声をかける。


「クロード君か。 ご苦労様です」


 漆黒のローブに身を包んだ不死王は、俺に一礼をした。


昔、こいつもぶっ飛ばしたからな……。


「それで、今日のご用件は?」

「戦利品を、実験室に運ぶ為ですよ」


 そう言って指差す先には、馬車で引かれた牢屋の中に、人間が詰め込まれていた。


 こいつの実験室送りとは、運がないな人間よ。

 死ぬまで切り刻まれて、死んだ後はアンデットとして第2の人生の始まりだ。


 見慣れた光景で、いつものように牢屋の中を眺めると、


——アラン?それにリナも?


 昔の面影を残しながら成長した、かつての仲間の姿を見つけた。


「ハーデス様、中の人間を少し宜しいですか?」


 丁寧な口調だが、有無を言わさず二人を牢から出させる。


 二人は怯えながら、引きづり出された。


「久しぶりだな」

「……?」

「……女神様……女神様……お助け下さい」


 アランは呆けた顔で、こちらを見る。

 リナは、青ざめた顔でうつむきながら、呟いていた。


「覚えていないのか?」

「魔族に知り合いなどいない!——ペッ」


 両手を縛られたアランは、半ばヤケクソ気味に唾を吐きかける。


 何か話したかったわけじゃないだ。

 ただ、もう一度やり直せるか期待したんだ。


「……そうかよ」


 顔にかかった唾を拭いた手で、俺はアランの首を刎ねた。


 右手から、鮮血が滴り落ちる。

 その手を見つめる。


 あの日、俺の身体を貫いたアラン。

 これが、復讐を果たすという事か?


——何も感じないな。


 アラン、俺の最後の餞だ。

 拷問の連続より、楽にあの世に行けただろう?


「私の実験台を、壊さないでもらいたいのですが」

「今、俺は機嫌が悪いんだ……消滅させるぞ」


 殺気を向けると、ハーデスは「冗談ですよ」と引き下がる。


「この女は、俺が貰う。 文句があるなら、力で奪うが?」

「いえ、クロード君の珍しい姿を見れたので、それはあげますよ」


 ゴブリンの苗床にするより面白そうだと、ハーデスは言う。


 そして、リナを連れていこうとしたら、


「お姉ちゃん、どこ? お姉ちゃん?」


 牢屋の中で、瞳の色を失った少女が、誰かを探していた。


「お姉ちゃんとは、リナの事か?」

「うん、そうだよ」


 目の前にいるのに、必死に探している。


——目が見えないのか?


「リナ、このガキはなんだ?」


 そう問いかけても、彼女は現実逃避を続けていた。


「その子も、サービスしますよ?」


 俺は、ハーデスの提案に乗るのだった。

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