追放された冒険者~パーティどころか国から追放されましたが、魔王城で最強の門番をしています~

少尉

第1話 追放

 鈍い光沢を放つ剣が、俺の身体を貫いている。

 剣を握っているのは——共に冒険者としてパーティを組んでいた戦士アラン。


 魔族に妹を殺された彼は、俺を憎しみのこもった目で睨みつけていた。


 俺が、何をしたって言うんだ……?


 その後ろでは、怯える目でこちらを見る僧侶リナ。


 そんな目で、俺を見るな……。


 剣で貫かれた箇所から、赤い血が吹き出す。

視界が、眩む。


「トドメを刺すわ。 離れてアラン!」


 そう叫ぶと同時に、呪文を唱えるのは魔法使いのフレイムだった。


 彼女も、魔族を毛嫌いしていたな。

 思考が鈍り、どこか他人事のように感じながら、火球の魔法に吹き飛ばされる。


 場所は、冒険者ギルド。

 床に打ち付けられた俺は、幾人もの冒険者から、剣や槍を身体に突き立てられた。


 俺の右手の呪印が、紫色に光る。


 どうして、こうなったんだ……?


……

………


——数時間前——


 俺達4人パーティは、冒険者ギルドに来ていた。


 パーティを組んで、2年と少し。


 誰でも加入できる冒険者ギルドは、Fランクから始まり、Dランクまでは仮所属になる。


 そして、Cランクに昇格すると、鑑定の水晶でステータスを確認し、正式な冒険者として登録されるのだ。


 全ての冒険者の目的は、魔族を率いる魔王の討伐。

 戦士アランは、復讐者としてCランクを目指していた。


 気弱な僧侶のリナは、教会から派遣されたらしい。

 いつも、戦うのは嫌だと泣き言を言っていた。


 魔法使いのフレイムは、ただの戦闘狂だろう。

 魔法をぶっ放す度に、楽しそうな顔をしていた。


 そして、俺はただの村人だった。

 人よりも少し頑丈で、力があり、闇魔法を使えるただの村人。

 狭い村では、気味悪がられ、居場所がなくて冒険者ギルドに来た。


 そんな俺達は、臨時パーティを組み、いつしか固定パーティを組んでいた。


 そして、待ち望んでいたCランク認定。

 これで、正式な冒険者として魔王の城を目指せる。


 鑑定の水晶は貴重な品物で、自分の全てが明かにされるらしい。

 ここで、より適正な職を見つける者もいると聞く。


 珍しい闇魔法を使える俺の適正はなんだろう?と、楽しみにしていたのに……。


……

………


「あなたのステータスは……!?」


 鑑定の水晶を前に、ギルド職員のお姉さんが、引きつった顔になった。


——何か珍しいスキルでも、見つけたのか?


「きゃあああ!! 魔族よ! 魔族!」


 二人っきりの空間で、悲鳴を上げる女性。


 魔族と叫ばれて、俺は臨戦態勢を取り、部屋を見渡す。


 どこに魔族が!?と気配を探っていると、扉が勢いよく開けられた。


 武器を構えたギルド職員達が、駆け込む。

 そして、悲鳴を上げた女性が、俺を指差した。


「悪質な冗談は、よしてくれ」


 俺は肩の力を抜いた。

——何をバカな事を、言っているのだろう。


 だが、女性が次に指差した鑑定の水晶には……。


クロード Lv24

魔族 魔剣士


 その下にステータスが続くが、そんな事には気が回らない。


 俺が、魔族だなんて、そんなバカな事あるか!


 確かにアランからは、人とは思えない怪力だと感心された。


 リナからは、ヒールが必要ないくらい自然治癒が早いと呆れられた。


 フレイムからは、闇魔法を使える人間なんて珍しいわねと羨ましがれた。


 だけど、俺はただの村人で、冒険者で、人間なんだよ!


 武装したギルド職員が、斬りかかってくる。


——人間なんだよ!


 背中を斬られるが、痛みはあまり感じない。


——人間なんだよ!


 何度も斬られるが、叫び続ける。


 そして、鑑定の部屋から逃げ出すと、俺は囲まれた。

 武器を構えた冒険者達。

 そして、共に戦った仲間達。


 アランとリナは、困惑した目でこちらを見ていた。


 だが、


「鑑定の水晶が示しました! 間違いなく魔族です!」


 その声が響き渡ると、「悪魔が忍び込もうとしていたのか!」と声があがる。


——俺は、人間だ!


 そう心の中で、叫ぶ。

 けれど、魔物を狩るように冒険者達が斬りかかってきた。


——俺は人間なのに……。


 怒りが身体を支配する。

 物心ついた頃から、右手に刻まれていた呪印が怪しく光る。


 気づけば襲いかかる者を、吹き飛ばしていた。


——オレハニンゲンダ……。


「クロード、おまえ、そのツノ……」


 アランが、何かを決意した表情で俺を見る。

 リナは口元を押さえ、怯えていた。

 フレイムは、完全に殺意を向けている。


——そして、俺の身体は貫かれていた。


 どうして、こうなったんだ……?


 不思議と身体に痛みは感じない。

 それどころか、呪印の光が増す度に力がみなぎる。


 床に這いつくばるように、剣や槍を突き立てられた俺は……。


——闇魔法 漆黒を発動した。

 周囲が闇に包まれる。


 そして、俺は冒険者ギルドの窓を突き破り、街を駆け抜けた。


 ただただ、駆け抜けた。


——俺は人間なのに……。


 そう叫びながら。

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