Chapter Three. Conceited -ピンチは突然やってくる-

第11話 謎の男

 ブライアンに認められて、食事をしたあの夜から、数ヵ月いや半年以上の時が経った。夜の訪れは早まって、肌寒さを感じる日が多くなり、上着が必要な季節がやってきた。


 あれから、他の地区のギャングとのドンパチから、裏切り者の始末など様々な案件をこなした。ブライアンのおかげでどの案件もちょっとしたピンチに陥ることはあっても、死を強く意識するようなもの何もなかった。


 確かに難しい案件を取り扱い始めた頃は、あの夜に感じた”後戻りできない恐怖”というものに少しおびえていた。しかし、徐々に仕事をこなすうちにそういったものも感じなくなっていた。そして、悪党を殺すことにも抵抗がなくなっていった。これは仕事なんだ、といつからか自分に言い聞かせるようになった。


 だが、心の中で何かが引っ掛かっていた。それは仕事をこなしたり、人を殺したり、ケイトと過ごしたりしてもれなかった。そして、正体もよくわからないまま、ずっと時間だけが過ぎていった。


 そのせいか、ストレス解消になればと、タバコを吸うようになっていた。ブライアンもケイトも煙を嫌がるので、結局家にいる時しかほとんど吸うことはなかったが、タバコとライターは常に持ち歩いていた。


 今日はブライアンとの仕事のミーティングがあった。ブライアンの仕事の腕はやはり素晴らしく、信頼している。その一方で一緒に仕事するうちに、初めて会った時のような憧れの感情は鳴りを潜めていった。


  シャツの上から、ジャケットを着て、銃を簡単に点検してからポケットに入れる。この時期は銃が隠しやすいから助かる。ダウンタウンから少し離れたところにあるアパートから出ると、外にはランチタイムの終わりなのか、午後の仕事に向かうビジネスパーソンたちが通りを歩いていた。


 ブライアンとの待ち合わせ場所のレストランに向かおうと、バス停に向かう。バス停にはすでに人々が列を作っていた。


 しばらく待っていると、バスが後方からやってくるのが見えた。だが、そのとき列の後ろの方に並んでいる男と目が合ったような気がした。そのときはきっと気のせいだろうと思って、そのまま来たバスに乗り込んだ。


 だが、バスでつり革を握りながら立っていると、少し離れたところにいるその男とまた目が合ったのだ。さすがに偶然ではないと思い、つり革を握る腕で顔を隠しながら、男の方を盗み見る。


 男は白人の30代くらいの男だった。髪はきっちりとセットされていて、服装はスーツの上からトレンチコートを着ている。一見するとビジネスパーソンだが、もしかすると同業者の可能性もある。そこで、念のためにとベルを鳴らし、次のバス停で降りることにした。


 真っ先にバスを降りて降車する人々を確認していると、その男も同じバス停で降りるではないか。これはさすがにまずいと思い、大通りに入って男を撒こうとする。だが、男はこちらを見失わずに付いてくるのだ。


 その後も、入り口の多い建物や曲がり角の多い場所に誘い込んで撒こうとしたが失敗した。そこで、ようやく降参して、人通りの少ない通りで、後ろの方にいるその男に声をかける。


「何か用でもあるのか?」


「いつ、声をかけてくれるかと心配したよ」


 と男は微笑みながら、こちらに近づいてくる。そして男はポケットから何か取り出すとそれを自身の右の手のひらに乗せた。


 その男の手のひらを覗き込むと、そこにあったのは警官バッジだった。


「モロー刑事だ。近くでお茶でもしないか?」

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