第12話 もう一つの道

 トラブルで遅れる、とブライアンに伝えて、俺はモローと一緒に近くのカフェテリアに入った。ウェイトレスがやってくると、モローはコーヒーとショートケーキを注文した。俺もコーヒーだけ注文する。


「吸っていいか?」

 

 と、タバコのケースを上着のポケットから出しながら、確認を取る。するとモローは、


「いいですとも」


 と笑顔で快諾した。そして、テーブルの隅に置いてあった灰皿を俺の前に持ってくる。タバコにライターで火をつける。そして、煙を吐き出しながら、俺は質問する。


「一体俺に何の用何だい? 刑事さん?」


「私たちの調べでは、君はここら辺を仕切っているイタリアンマフィアの構成員のはずなんだが、違うかね?」


 と直球に質問で返してきた。


「さあね。知らないね」


 としらを切る。だが、モローはさらににやにやと笑いながら言った。


「君の右ポケットに入っているのは銃じゃないかね? 私は今ここで君を逮捕することだってできるんだ」


 そして、上着の右ポケットを見つめる。


「どうしてわかるんだ?」


 と少し苛立たしく尋ねる。


「いや、言ってみただけだよ。そんなに怒らないでくれ。それに何があっても、今日君を逮捕するようなことはしないよ」


 と相変わらず腹立たしい笑顔をしながら言う。だが、急に真剣な顔つきになって、


「ここで私が君に提案したいのは、情報提供者になってくれないかということなんだ」


 モローの言ったことに驚いて、危うくタバコをテーブルに落とすところだった。タバコを灰皿に置いて、少し声を荒げて言う。


「俺にタレコミ屋になれって言ってんのか!?」


「まあまあ、少し落ち着きなさい。最近、君の組織でよからぬ動きがあったようなんだ。君たちの組織から他の組織に情報を流した奴がいたらしくてね。それも幹部級の連中からだ。きっとこの後、内部抗争が起こるだろう」


 信じられないとばかりに、モローの顔を見たが、どうも嘘をついているようには見えなかった。すると、ちょうどそのタイミングで、ウェイトレスがケーキとコーヒーを持ってきた。


 俺はコーヒーに口をつけながら、質問する。


「もしそれが本当だとして、俺に何をしろっていうんだ?」


 モローはテーブルのシュガースティックを3本ほど取ると、封を切ってそれらをコーヒーに入れた。そして、コーヒースプーンでかき混ぜながら言う。


「君の知りえる限りの情報を私に提供してほしい。内部抗争なんて始まれば、無関係の人間がどれだけ危険な目に遭わされるか! それを防ぎたいんだよ!」


 と説得しようとしてきた。そして、少し戸惑った俺の表情を認識したのか、続けてこう言った。


「大丈夫だ。君の身は私たちが保証する。危険にはさせない」


「ジョン・クルーガーでも呼んでくれるのかい?」


 とからかう。そして、


「悪いが、俺には関係ないね。それじゃ失礼する」


 とコーヒーを一気に喉に流し込み、代金だけテーブルに置いて立ち去ろうとするとモローに呼び止められる。


「お前だって、今の仕事でいつまで生きられるか不安じゃないのか? 将来のことは考えているのか? 協力してくれ。悪いようにはしない」


 と言って、名刺入れを取り出し、そこから一枚名刺を抜き取ると、「連絡先だ」とテーブルに置いた。


「急がなくていい。連絡を待っている」


 とこちらを真剣な顔で見ながらモローは言った。

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