第七章 - Ⅲ
夕食を摂り終えた僕たちは、食器の後片付けを終えるとダイニングに集合し、ディカリアに対する方針を話し始めた。時刻はそろそろ日付を越えようとしている。思ったよりも遅い時間になってしまい、眠気も無視できない。
「あの様子だと、生徒会長は確実に現れるわ。恐らく、タカトの命を狙うでしょうね。鎌女と違って相手の武器も分からない以上、対策は立てられないけれど。私としては、赫熊アミナの情報を訊き出せれば何でもいいわ」
「んー……ヒドゥンも引き連れてくるかもしれないし、場合によってはホノちゃんとヒメちゃんにも協力してもらうしかないかもね。一応、連絡はすぐに取れるようにしておくね」
「うん、それがいいね。クレインの言う通り、ディカリアの狙いは僕だと思う。クレインとミオリには迷惑をかけるけど――」
正直、申し訳ない気持ちはあった。お泊り会、といえば聞こえはいいかもしれないが、実際はディカリアの迎撃作戦にも等しいのだ。
「何を弱気になってるの、タカト。今までだってそうだったんだから」
「そうだよ。むしろ、ルーシャさんの仇討ちも含んでるんだから。私は本当に数回しか会ったことがなかったけど、クーちゃんと同じ気持ちだよ」
「そういえばそうだったわね、ミオリ。あなたはホノカのように一緒に訓練はしなかったけど、お姉ちゃんに懐いてくれているのは分かってた」
「もー、確かに懐いてたかもしれないけど、それじゃあなんだかペットみたいだよぅ」
束の間の談笑。なんだか、僕の弱気も吹き飛んでいた。このままディカリアが現れず、平和な夜で終わってくれれば。そんな儚い願いは瞬く間に引き裂かれる。
「――ッ! タカト、ミオリ、気を付けて!」
クレインが叫ぶと同時に、煌々と灯っていたはずの電気が一斉に消えた。
「く、ッ!?」
何が起こっているのか分からない。クレインに言われるままに身構えたはいいものの、このまま第二波が襲ってこないとも限らない。
「クーちゃん、これって――」
「ええ。間違いないわ。ディカリアの連中の仕業、だけど、今のはちょっとした威嚇に過ぎないわ。ともかく、ここを出ましょう。奴らは外にいるはずよ」
少しだけ姿勢を戻したクレインは、僕らに瞳で合図をする。三人で外へ出ようという算段だ。
クレインに続いて外へ出ると、周りの家にも停電の影響が及んでいるようで、一帯を暗闇が包んでいる。クレインは腕輪に手を伸ばしながら辺りを見渡す。
「どこにもいない……?」
「そんなはずはないわ。どこかに――」
そのとき。近くで響いた足音に対して不意に上げた視界に、誰かの影が飛び込んでくる。一本の棒のようなものを携えている。思わず目を見開いている自分がいた。先日、カフェで、僕の先輩として接してくれた彼女。
「こんばんは、タカトくん。今夜はいい月が出ていますね」
「ササコ先輩……!」
そんなササコ先輩が、今は敵となって僕らと対峙している。彼女が言う通りの、大きな満月を背に。表情は柔らかく、それがとても場違いに思えるが、彼女は言葉にし難い殺気のようなものを放ち、僕たちを威嚇しているようだった。
「さっそくですが、来ちゃいました。クレインさんの他にもお仲間がいるとは思いませんでしたが」
「生徒会長……ノコノコ現れてくれて逆に好都合だわ。今日こそ串刺しにしてあげる。その前に、アミナの居場所について話してもらうわ――アマト!」
両腕に装備された腕輪を一対の槍へと変化させ、早くも臨戦態勢に入るクレイン。その鋭い先端がササコ先輩に向くが、当の本人は顔色ひとつ変えない。
「アミナの件、タカトくんから聞いたんですか?」
「ええ。あなたがタカトに話してくれたおかげで、ようやくお姉ちゃんの仇の尻尾が掴めた。その点だけは、感謝してあげる。でも、あなたは敵よ。この場で倒すわ」
「そうですか。生徒会室に乗り込んできた段階で薄々感じてはいましたが、随分と威勢がいいですね、クレインさん。では――」
ササコ先輩は、手にした棒を高く振り上げた。よく見ると、杖のような形状をしている。攻撃か、とも思った。しかし、彼女の杖の先端が光った以外は、特に変化はない。僕にもクレインにもミオリにも、ダメージはなかった。
「ッ、何をしたの?」
「クーちゃん、大変だよ! ヴァリアヴル・ウェポンの交信が使えない!」
首元のチョーカーを巨大な斧、ソレクへと変化させたミオリ。武器を生成した時点で気づいたのだろう、半ば青ざめたような表情で、クレインに向かって叫ぶ。
「な、どういうこと……?」
「あなたたちは知らなくても無理はありませんが、ヴァリアヴル・ウェポンには「秘匿された力」が存在します。私の「メリン」は、ヴァリアヴル・ウェポンの機能を制限する能力があります。交信については、人間の電子機器にも効果があるみたいですね」
他人事のように言うが、実際に僕の所持しているスマートフォンは電源が入らない状態が続いている。これでは、助けも呼べない。
だが、クレインは臆することなく先輩に向かい放った。
「能力だか何だか知らないけれど、ご丁寧に説明してくれて感謝するわ。でも、簡単なことよ。あなたをここで倒せばいい、そうでしょう? はぁッ!」
クレインの鋭い踏み込み。元々リーチの長いアマトが、ササコ先輩に迫る。一見、殺傷能力のない杖のような武器。受け止めるか、と思ったがそうではなかった。ササコ先輩は小さく息を吐くと、流れるような動作でアマトの先端を回避した。
「少しは期待したのですが、この程度ですか?」
「な、避けられた!?」
懐に潜られては為す術もないクレイン。その勢いのままクレインの後方へと回り込んだ先輩は、左手に持った杖を優雅に振るい、無防備な状態のクレインの背中を打ち据える。
「あ、ぐッ!」
よろめくクレイン。何とか転倒は免れたものの、的確に急所を打たれた様子だ。先ほどとは呼吸の感覚が違っている。
ササコ先輩は余裕綽々といった様子でクレインにアドバイスを飛ばす。
「復讐心は、感情を昂らせます。それがいい方向に作用するときもあれば、逆もある。クレインさんはもう少し冷静になる必要がありそうですね」
「クーちゃんっ!」
今度はソレクを構えたミオリがササコ先輩に向け突進する。武器の影響もあるのか、その動きはクレインに比べると重い。大きく振りかぶる動作を見てから、先輩は杖でミオリの脛を狙う。
「いッ!?」
先輩の思惑通りの一撃を加えられたミオリ。かくん、と膝を突き、同時にソレクがアスファルトへとめり込む。対する先輩は、パンプスのヒールを鳴らしながらつまらなそうに言った。
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