第六章 - Ⅷ
「計画、ね。ディカリアの計画なんて突拍子もないものでしょうけれど、タカトは聞いたの?」
「うん。人間たちの、この世界を壊すって」
「うわぁ、それはだいぶ大きく出たね。クーちゃん、私たちの存在は眼中にないのかな?」
驚愕の声を上げるミオリ。しかし、ディカリアの大将にも等しいアミナが人間の世界に打って出てきたということは、それなりに危機感は抱いているということ。
「お姉ちゃんを殺せるような連中だから、強いのは間違いない。後で話そうかとは思っていたけれど、単独行動は控えた方が良いかも知れないわね。私が言えた台詞じゃないけれど」
クレインはそう言うと、僕を一瞥して肩を竦めた。あの夏祭りのことを言っているのだろうか。確かに、ミオリやヒメノのサポートがあれば、ヒトヨを倒すことも出来たかもしれない。
そうこうしているうちに、ミオリ邸に到着した。最初に迎えてくれたのはホノカだ。
「お帰り。なんだ、タカトとクレインも一緒なのか」
「ええ。ホノカ、ヒメノも交えて作戦会議、いいかしら。お姉ちゃんの仇が分かったわ」
「なんだと? それは……でも、これでようやく私の疑いが晴れたわけだな。全く、お前には相当振り回された」
「むッ……過ぎたことよ。気にしないで」
ホノカは師と仰いでいたルーシャさんの仇の存在が分かり、そして自らの疑いが晴れたことに安堵している様子だ。
「ともあれ、私も全力で戦える。さあ、今後の方針を話し合おう。いや、まずは目先の敵の情報からだな。とにかく上がってくれ」
「ホノちゃん、ここ、私の家なんだけどなぁ。まあいっか、それだけ馴染んでるってことだもんね!」
「ああ、すまないな」
本当の仲間として迎え入れられたホノカ。その赤い瞳には、間違いなく戦う意志が秘められていた。
ミオリ邸の中でヒメノとも合流し、作戦会議が始まった。
まず、カフェで起こった出来事と話の内容を、僕は執行兵たちに向かって事細かに話した。
ササコ先輩のこと、キララのこと、アミナのこと。ディカリアの目的と、ルーシャさんとの関係。そして、僕がディカリアの誘いを断ったこと。
話し終えたところで、彼女たちに沈黙が走る。当然、質問したいのは山々。しかし、どんな言葉で伝えればいいのか分からない。そんな印象だ。
そんな中、最初に口を開いたのはクレインだった。
「――みんな、あくまでも私の個人的な意見だけ、言わせてもらうわ。ディカリアの連中は強い。私とホノカを育て上げたお姉ちゃんが、殺されてしまうくらいなんだから。それでも、私はアミナを、ディカリアを倒したい」
力の籠るクレインの肩に、そっと触れる指。ホノカだ。
「お前のことだから、てっきりすぐにでも殺しに行くと言い出しそうなものを。さすがに怖気づいたか?」
「違っ……! 馬鹿なこと言わないで。確かに、全く恐怖がないと言ったら嘘になるわ。でも、やるしかない。力を、貸してくれる?」
「愚問だな、クレイン。自ら師と仰いだ人物が殺されたんだ。血縁は無くても、ルーシャさんは私の姉のような存在だった。私も仇を討ちたい。もちろん、力を貸そう」
ホノカに続く形で、ミオリとヒメノも瞳を交差させる。
「執行兵の方針とズレてることなら、正さなければいけないと思う。当然、私も戦うよ!」
「ディカリアの排除は優先事項ですからね。執行兵としての任務を果たしつつ、クレインの手助けも出来るのならそれに越したことはありません。私も援護させていただきます」
「みんな……!」
決して短くはない時間を共にしてきたクレインが、初めて見せた涙。自分の主張が認められたことによる安堵と、確かな決意。
「ありがとう。タカトの意志確認は、この前したわね。でも気を付けなさい。ディカリアの排除対象はまずあなたよ。あなたが殺されてしまえば、奴らの計画はほぼ完遂したも同じ。後は簡単に殺される心配のなくなったヒドゥンを使って、人間の世界を滅ぼすだけ。もちろん、私たちもあなたを守るけど、限界があることだけは留意して。だから、あまり単独行動はしない方が良いと思う。特にこの夏休みの期間、どうするべきなのかしら」
常に学校で顔を合わせているわけではないし、何か対策を取るべきだ。ディカリアと戦うにしても、クレインひとりではできることに限りがある。
「あっ、じゃあさ!」
ミオリが手を挙げる。全員の視線が注目する中、照り付ける太陽にも負けないくらいの笑みで、ミオリは放った。
「タカトの家でお泊り会、しようよ!」
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