029 プルトの黒い魔石(クリスタル)
「ダンジョンの魔物(モンスター)をやっつけたのはタトだから、これはタトのものね」
少女フローラが黒い魔石(クリスタル)を少年タトに渡す。少年タトがそれを受け取った瞬間、ゾクゾクとするようなどす黒いオーラが放たれる。
次々と湧き出るオーラがダンジョン内を震わせる。その膨大なエネルギーが渦を巻いて少年タトの体に吸い込まれていく。
「ふふふっ。面白いことになったね」
岩陰に隠れて様子をうかがっていたスライムになったタトと聖女ティアの後ろから声を掛ける者がいた。
「あなたは・・・」
二人は真ん丸の体を回して振り向く。少年タトと同じくらいの年齢の黒服の子供が立っていた。
「僕はプルト。死神プルトさ」
「死神プルト・・・」
「おーっと。聖女ティア、聖なる光でマリオネットの力を抑え込もうなんて無駄だよ。魂になったキミにそんな力なんてない。スライムの体ではなにもできないさ」
プルトと名乗った少年は邪悪な笑みを浮かべる。
「さあ、魔物(モンスター)退治の大虐殺の始まりだ。くくくっ。面白い見物がみれるぞ」
プルトの姿が闇に溶け込むように消えていく。
「タト、タト。大丈夫」
振り向くと膨大なオーラを吸収して気を失った少年タト。彼の体を少女フローラが揺らしていた。
「ああ、フローラ。問題ない。すごい力を魔石(クリスタル)からもらったよ」
「そうなんだ。じぁ、ダンジョンの二階層もクリアできるかな」
頼もしそうに少年タトを見つめる少女フローラ。
「余裕だね」
答える少年タトの瞳が獣のようにギラリと光った。
「なんか、タト。一瞬でたくましくなった。私について来て良かったでしょ」
「ああ、フローラのおかげだよ」
何も知らない二人は下のダンジョンへと降りて行った。
二階層目のダンジョンでは現れる魔物(モンスター)のレベルがE級からD級へと変化する。
鬼火の姿をして強力な火球を放ってくるランタン、楯で守り剣を振るうスケルトン、毒魔法を使うツインヘッドスネーク。
ヤクル村の森や林ではめったに見かけないような魔物(モンスター)を少年タトは子ウサギでも狩るかのようにやすやすと倒して魔石(クリスタル)に変えていく。少女フローラがそれを拾い集めながら少年タトに続く。
「タト、もう一杯だよ。持ち切れないよ。そろそろ帰ろう」
「フローラ、そんな小物は捨てろ。下の階に降りる」
村人なら大人でも遠くに見えただけで逃げ出す魔物(モンスター)を短剣一本で一撃でなぎ払ってしまうタト。頼もしいけど・・・。少女フローラは少しばかり恐ろしくなっていた。
「タトー、いくらなんでもやり過ぎだよ。ダンジョンの魔物(モンスター)を全滅させるきなの」
「そうだな。それも悪くない」
そう答えて笑う少年タトの顔がいつものタトじゃない。
「そんなの絶対に無理だよ。私、怖い」
「大丈夫さ。今の僕ならいける。フローラも言ったじゃないか。まだ誰も潜っていないダンジョンだよ。冒険者が潜る前に魔物(モンスター)を魔石(クリスタル)にしてやるんだ」
「タトー」
このフロアの魔物(モンスター)だって少女フローラにとっては十分すぎるくらい恐ろしかった。今、タトと離れたら独りで帰る自信がない。
「なっ、フローラ。次の階で危険を感じたら帰ろう。ほら、この階もクリアだ。あそこにダンジョンフロアの終了ギフトが置いてある」
少年タトの指さす先に宝箱が置いてある。フタを開けると純白の回復魔法のクリスタルが入っていた。ほんの少し使っただけで二人の体力は回復する。少し小さくなったけど残ったクリスタルだけでも高額で売れる大きさだ。
「もうちょっとだけだよ」
元気になった少女フローラはポケットの中の小さい魔石(クリスタル)を捨てた。
三階層目でも少年タトの快進撃は止まらなかった。巨大なC級魔物のトロルも炎や冷気を吐き出すキメラ、黒魔剣を使う鎧の魔物(モンスター)、リビングメイルまで一撃で倒していく。
「タト、メチャメチャ強い。ガドリア王国のC級冒険者だって手こずる魔物(モンスター)だよ」
ポケットを膨らませて後を追う少女フローラはタトの強さに夢中になった。もはや少年であるはずのタトの強さが異常であることなんてすっかり忘れるくらい。
「タトは本当に神童だね。相手が強ければそれ以上に強くなるんだもの。もうビックリだ」
「だろ。心配ないっていったじゃないか。フローラ、次の階に進むぞ」
倒された魔物(モンスター)から生まれる魔石も魅力的だったが、なにより憧れのタトの活躍をずっと見ていたいと思うフローラがそこにいた。もう帰りたいなんて言い出す気持ちもすっ飛んでいた。
「いこ、タト。こうなったら魔物(モンスター)なんて片っ端からやっつけるんだから」
四階層目のB級魔物(モンスター)、五階層目のA級(モンスター)までさほど手こずることなく階を進める少年タト。
上級冒険者でもパーティを組んで潜るレベルをタトは独りでやすやすとこなす。いつしか二人は最下層の魔王の宮殿にたどり着いていた。
「まさか人間のガキがここまでやってくるとは思わなかった。これは驚きだ」
S級魔物(モンスター)であるドラゴンを両脇に従えて玉座にすわるボスと思わしき者。全身を覆う竜のうろこから邪悪なオーラが溢れ出ている。
「我が名は魔王ゾラ。あの世で己の功績を褒め称えるんだな。ゆけ、火竜(ファイヤードラゴン)、雷竜(サンダードラゴン)」
魔王ゾラの命令で今まで倒してきた魔物(モンスター)とはサイズも力も魔力も桁違いのS級魔物(モンスター)が同時に少年タトに襲いかかったのだった。
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