028 魔物狩り

 少女フローラは手の平の上に魔法で小さな灯を作り出す。暗闇が退きダンジョンの中が数メートルほど浮かび上がる。ゴツゴツとした岩肌が続く洞窟の中、少年タトと少女フローラは進む。


 途中、E級魔物(モンスター)のスライムやゾンビ、ゴブリンなどが現れる。少年タトは短剣を使ってそれらを撃退した。倒された魔物(モンスター)たちは小さな魔石(クリスタル)にかわり、フローラがそれを集めて回っている。


 幼かったころは、アルバイト代わりに森や林に潜む下級魔物(モンスター)を探しまわって魔石(クリスタル)集めをしたっけ。ダンジョンだけあって下級魔物(モンスター)の出現率が高い。


「タト、もうこんなに魔石(クリスタル)がいっぱいだよ」


 少女フローラは握った魔石(クリスタル)を少年タトに見せた。


「ねっ、心配なんて全然ないでしょ」


「すごいな。じっちゃんに美味しいものを買って帰れる」


 少年タトも満更じゃない顔をしている。二人は顔を見合わせてほほ笑む。


「ねっ、あそこ。行き止まりの所、下の階に通じる階段じゃない」


「ほんとだ」


「ねっ、行ってみない。タトならD級魔物(モンスター)でもやっつけられるよね」


「もちろんさ」


 少年タトは瞳をキラキラさせながら答える。


 あの頃の僕は自信に満ちていたっけ。今の僕とは大違いだ。


 少し離れた場所から二人を見守るスライムになったタトと聖女ティア。二匹の横をダンジョンの奥から黒い影が猛スピードですり抜けていく。E級やD級なんかとはまるで桁違いの強い気を感じ取る。


「聖女ティア様、今のは・・・」


「A級レベル以上の強い気でした。二人が無事でなによりです」


 少年タトと少女フローラはまるで気づいていない。無邪気に手に入れた魔石(クリスタル)で何を買うか話しながらダンジョンを進んでいく。


「あっ、タト。階段の前に宝箱が」


 駆け出す少女フローラ。


「ねえ、タト。ダンジョンフロアの終了ギフトが置いてあるよ」


「本当だ。僕達、一階層をクリアしたんだ」


「もう冒険者の仲間入りだね」


「すごいや。じっちゃんビックリするだろな」


「早く開けてみようよ」


 宝箱を開けて中を覗き込む二人。


「すごい。大きな魔石(クリスタル)」


 少女フローラが手にしているものはこぶし大の大きな黒い魔石(クリスタル)だった。


 離れた場所にいるスライムになったタトは驚く。


「あの魔石(クリスタル)、ビフやフローラが持っていたものと同じだ」


「真っ黒な魔石(クリスタル)・・・。あれって・・・。ガドリア王国聖教会で教わった様な・・・」


 スライムになった聖女ティア様がブルブルと震えだした。


「タト君、あの魔石(クリスタル)は『マリオネット』です」


「『マリオネット』って」


「持つ者の邪悪な心を目覚めさせ、支配し操る魔石(クリスタル)。邪神が扱う魔法具と教わりました」


「聖女ティア様、予選会の時にビフやフローラが同じモノを持っていました。二人は邪神に操られていたと言う事ですか」


「・・・。おそらく」


「あれ、ビフやフローラが持っていたものよりも大きいぞ」


「私の魔法力ではとても太刀打ちできない代物です」

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