027 ヤクル村中学校の裏山にできたダンジョン
僕は時魔法を逆流させ、聖女ティア様の魔法力で作り出した時空の歪みとやらを抜けた。今、僕と聖女ティア様はヤクル村中学校の裏山の奥にできたダンジョンの入り口前にいた。
正確には魂だけなのでいると言えるかちょっと心もとないころもあるけど。小学校の時にヤクル村の中学校の裏山で見た懐かしい光景が見える。
『タト君、魂のままだと力が拡散して、やがて薄れてなくなってしまいます。低級魔物の体を借りましょう』
『拡散したらどうなるんですか』
なにしろ僕は魂になったことないし、そんな存在があることも知らなかった。
『死んでしまいます』
だよなー。やっぱり。このままフワフワと気ままに生きていけるならとちょっと思ってしまった。現実は厳しい。
『丁度いいところにスライムが二匹。あれに憑依(ひょうい)しましょう』
林の中でスライムが二匹、ピョンピョンと跳ねている。小学生の頃、良く追っかけたことがあるE級魔物だ。魔物が住まうダンジョンに入るならおあつらいむきだ。
キュン。
一匹のスライムが鳴いた。緑色の体が純白に変化していく。聖女ティア様のオーラを感じる。ティア様スライムになってもかわいい。
と思ったら気がついたら、僕の視線の高さが地上三十センチになっている。聖女ティア様が僕の魂をもう一匹ののスライムに憑依されてくれたらしい。お腹の下がポヨポヨする。
「ふふっ、タト君。かわいいです」
ほんのり赤くなる純白のスライム。メチャキュートだ。
「聖女ティア様ですか」
僕は目の前のスライムにたずねる。
「はい。私とタト君の魂を一次的にスライムに移しました」
僕のスライム姿、うぐっ、真っ黒やんけ。やっぱり僕の魂はドス黒なんだろうか。不安になってくる。
「そろそろ小学生のタト君とフローラさんが来る頃です」
「そうだった」
僕達はピョンピョンと跳ねながらダンジョンの入り口横の草むらに隠れた。
程なくして幼いころのフローラと僕が連れたって走ってきた。ダンジョンの入り口の前に立つ看板を見上げている。
『この先危険。入るべからず。ガドリア王国ヤクル村村長』
少年時代の僕が同じく少女時代のフローラの服を引っ張っている。
やんちゃだった僕もこの頃のフローラには振り回されっ放しだったっけ。過去の自分を目の前にして思う。フローラの好奇心には敵わない。
「フローラ、やめようよ。村長に怒られるから」
少年タトは弱り顔。一方、少女フローラはやる気満々っといった顔をしている。
「大丈夫だよ。タトの力があれば魔物(モンスター)なんてへっちゃらだって」
「そんなのわかんないじゃないか。メチャ強い魔物(モンスター)が出るかも知れないだろ。このダンジョン、出来たばっかりで王国の冒険者だってまだ未調査なんだよ。危険だって書いてあるし」
「こんなど田舎のダンジョンだよ。そんな強い魔物(モンスター)なんているはずないでしょ。タトの臆病者」
「だけどさー、万が一ってこともあるだろ」
「ないない。ぜーんぜんない。それより、まだ誰も潜っていないダンジョンだよ。魔石(クリスタル)がたーんまりあるんだから」
小学生のフローラは金色の瞳を輝かせる。
「じゃあ、ほんのちょっとだけだよ。魔物(モンスター)が出たらすぐに引き返すからね。絶対だよ」
小学生の僕はあっさりと根負けしてフローラの後についてダンジョンに入っていく。
草むらに隠れていた純白のスライムが僕に小声て話しかけてくる。
「ふふっ、タト君ったらフローラさんの言いなりですね」
「フローラはいつも強引なんだよ。だけどこの後の事を僕は全然覚えていないんだ。何でだろ」
「それはタト君が記憶を消し去る魔法を自分にかけたからです」
「リミッター魔法とか時魔法とか記憶を消し去る魔法とか・・・。まるで身に覚えがないんだけど。聖女ティア様、いったい僕は自分に何をしたのですか」
「今にわかります。私たちもダンジョンに入りましょう」
純白のスライムはピョンピョンしながら小学生のタトとフローラを追ってダンジョンに入っていった。僕もボールみたいな体を弾ませて聖女ティア様のスライムの後を追った。
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