026 予選会決勝戦 フローラ対タト戦③
「タト君。力に飲み込まれてはダメ。制御するのです。タト君ならできます。千年修行してきたタト君ならできるはずです」
観客席の聖女ティア様の叫びが僕を正気にさせる。挑発にのって自分を失わずにすんだ。
「くくっ。余計なことを。せっかくマリオネットで手に入れたこの体。タト、お前にフローラを切り刻む楽しみを教えてやろう。それともフローラに切り刻まれる苦痛の方がいいか。とっちも楽しそうだ」
残像を残してフローラの体が消える。飛び込んでくる剣を僕は辛うじて避けた。
「くっ」
剣先が僕の頬をかすめ、赤い血が唇へと滴る。先ほどまでとはまるで違うフローラの剣は、もはや人間の領域を超越したレベルになっている。
続けざまに放たれる剣を僕は辛うじて受け続ける。圧倒的な速さに攻撃の糸口さえ見いだせない。
「フハハ。私の体を傷つけけたくないか。甘ちゃんだな。その中途半端な優しさが私をどれ程苦しめたかも知らずに」
今のはフローラ本人の言葉なのか。困惑する僕はずいぶん昔から彼女の気持ちを知っていた。そう、彼女が幼なじみ以上の感情を僕に抱いていることを。
やられっ放しの僕。ヤクル村中学校の黒髪の無能者。そんな僕を見捨てずにいつも守ってくれたフローラ。
金髪ショートヘアの美少女。いつも明るくクラスメイトに人気の元気女子。陰気な僕なんかとはまるでつり合わないフローラ。僕なんかじゃ彼女を幸せにできっこない。できっこないんだー。
カキーン。
僕の木刀がフローラの剣を弾き飛ばす。彼女の剣はクルクルと宙を舞って観客席の外まで飛んで行く。
「フローラ。もうやめてくれ。これ以上、キミとは戦いたくないんだ」
フローラの全身から力が抜けて、体を包み込んでいたどす黒いオーラが消えていく。金髪ショートヘアの美少女に戻って僕にほほ笑む。
「タト・・・。ゴメンね」
ウガッ。
僕は大量の血を口から噴き出した。フローラの左腕から伸びる真っ黒な光剣が僕の胸に突き刺さっていた。
「なっ、なにこれ。タト、大丈夫。タトー」
意識を取り戻したフローラの手から光剣が消えていく。左手に握られていた黒い水晶が音を立てて割れる。フローラは膝から崩れ落ちる僕の体を量て両手で受け止めた。
「わっ、私、何をしたの。私がタトを殺した。大好きな大好きなタトを殺しちゃったんだー」
タトを抱えたまま泣き崩れるフローラ。薄れていく意識の中でタトはフローラの悲しみの深さを知った。タトの体が眩い光に包まれる。
魂が体を抜け出して死んでいく自分の体を見つめている。中学生にしては小柄で痩せ細った体をしている。修行でついた傷が体中に見えて痛々しい。
『タト君、行きましょう』
僕の目の前に聖女ティア様が浮かんでいた。体が透けて、その奥の観客席に目を閉じたもう一人の聖女ティア様が立っていた。
『聖女ティア様・・・』
『私たちは、今、魂と呼ばれる存在です。魔法力の根源となる力の固まりとでも呼べばいいのでしょうか』
『僕は死んだのですか』
『そうですね。このままなにもしなければ後数分で死にます。タト君、時魔法を使えますよね』
肉体は失ったけど使えそうな気がする。
『過去に戻ってこうなってしまった原因を調べましょう』
『時魔法に過去に戻る力があるのですか』
驚いた。時間を遅らせるだけだってとんでもない魔法なのに。なんでもありだな。
『はい。タト君の魔法力は規格外です』
目の前の聖女ティア様はクスクスと笑った。その笑顔がなんとも可愛らしい。って、僕、あと数分で死んじゃうんだけど。
『大きな体は時空の歪みを通り抜けることができません。魂となった今がチャンスです』
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