025 予選会決勝戦 フローラ対タト戦②
何が起きていたのか分からず、突然戻ってきた二人に困惑するアリル先生。
「闘技場の外に出たら二人とも失格だよ」
「出ちゃいない。遥か上空にいただけだから」
答えるタトも実は良くわかっていない。フローラが幻術で作り出す世界はリアルすぎて区別がつかない。視覚だけならともかく落ちる風の匂いや肌に触れる雲の湿気まで現実そのものだ。
「先生、私たちはずっとここに居ましたよ」
「これだから幻術を使った戦いは困る。フローラ君、審判の私が判断のつかない事態をおこさんでくれ。頼むよ」
アリル先生はあごに手を持っていきオッサンみたいにポリポリとかいて見せた。
アリル先生・・・。美人が台無しなんだけど。緊張感が途絶えるタトだった。
「では試合を再開します。はじめ」
アリル先生の良く通る掛け声で再び試合は始まった。
すかさずフローラの体が三体に分裂してタトに襲いかかる。その素早さに観客席の生徒の多くがついていけず、フローラがまたしても消えたように感じている。が、大丈夫。アリル先生には見えているようだ。
僕は三人のフローラの攻撃を受ける。攻撃は激しさを増し、加速していくが、時魔法を使ってリセ様と実戦訓練した僕にはどってことない。
って、あれっ。
足元を剣ですくわれて転んでしまう。目の前に四人目のフローラが立っていた。
「タト、私は三人じゃないから。まだまだ増やせるわよ」
「はあっ」
四人が八人、八人が十六人。マジかよ、フローラ。どこまで増えるのよ。
「総勢百人。さあ、どうやって私たちと戦うのかしら、タト」
「・・・」
百人の白魔剣士対僕。右も左も闘技場全体を埋め尽くすフローラ。軍隊を相手に戦うようなものだ。
「アリル先生。闘技場から落ちた人はもう参戦できませんよね」
「そういうルールだ」
僕はニヤリと笑って木刀を振り回した。闘技場いっぱいに伸びるにょい棒が増殖したフローラたちを円形の闘技場の外へと弾け飛ばしていく。
飛び跳ねて逃れるフローラもいたが、一瞬で数は半分以下。
「へへっ。数じゃ僕には勝てないよ。フローラ」
「いつまでそんな減らず口が叩けるかしら。これだけいれば十分よ」
増殖したフローラ達の放つ無数の剣が僕に襲いかかってくる。乱戦状態でかわすのも難しい。剣先が僕の肌を斬っていく。
切り傷から赤い血が流れ、全身がカット熱くなる。ヒリヒリとした痛みが脳天を突き抜けていく。
強い。ヤクル村中学校の歴代ナンバーワン、奇跡の貴公子と呼ばれている黒魔剣士のカシスを負かしただけのことはある。
でも、僕だって千年の時を修行してきた体力だけはあるぞ。消耗戦なら負けるものか。
タトは肌を斬られながらも一人、また一人とフローラをにょい棒で場外へと叩き出す。壮絶な戦いは続き、いつしか闘技場に立つフローラは一人となった。
「タト、私の負けね」
清々しい顔で負けを認めたフローラ。敢闘を称える観客席の拍手の渦の中で、アリル先生が僕の手を取って天に向かって高々とあげた。
その時、場外に飛ばしたフローラの一人が闘技場によじ登ってくる。彼女の全身がどす黒いオーラに包まれていく。
「フハハハハ。フローラ。やっぱり女であることを捨てきれなかったか。愛だ恋だとか困るんだよねー。それじゃあ筋書き違いだ」
「フローラさん。場外に落ちたものは失格よ」
慌てて止めにかかるアリル先生の胸に剣を突き立てる真っ黒なフローラ。
「やめて。あなたは私なのよ」
止めにかかる負けを認めたもう一人のフローラ。
「弱い弱いフローラちゃん。タトの尻ばっかり追っかけていた泣き虫のフローラちゃん。タトに勝つのは私だ」
真っ黒に染まったフローラの剣がアリル先生の胸から抜かれ、止めにかかったフローラの首をはねた。
「フローラ」
僕は叫ぶ。
その瞬間、九十九人のフローラは消え、真っ黒なフローラだけが闘技場の上に残る。
「けっ。愛だの友情だの下らん。そんなものがあるから人間は強くなれない。タト、お前なら分かるよな。ヤクル村の魔王を一撃で倒した黒髪の転生者。『外(そと)』世界から来た規格外の力を持つタトよ。そろそろ目覚めたらどうだ」
心の奥底からおさえきれない怒りが込み上げいくる。心がどす黒い何かに包まれていく。
「フハハハハ。思い出したか、タトよ。ヤクル村中学校の裏山に出現したダンジョン。魔石(クリスタル)が欲しくてダンジョンに入った私を止めきれずについてきた優自由不断なタトよ。魔物の力に触発されて修羅(しゅら)の力に目覚めたタト」
「・・・」
「フローラは見ていたぞ。楽しかったなー、タト。魔王の首を一瞬で跳ね飛ばすんだものなー」
「フローラを救うためだ」
「ふん。私のせいにするのか。魔物とて命を宿すもの。大虐殺を楽しんでおいて私を救うだと。笑えるわ」
金髪ショートヘアの美しかった髪まで真っ黒に染まったフローラ。つり上がった黒い眼に宿る闘気は人のものとは思えない。彼女は口角をククッと上げて邪悪な笑みを浮かべながら剣をかまえた。
「さあ、戦おう、タト。試合はまだ終わっていない」
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