024 予選会決勝戦 フローラ対タト戦①

 闘技場の中央で向かい合ってかまえるフローラとタト。


「タト、手加減はなしだよ。最初から全力でいかせてもらうから」


 宣戦布告したフローラは戦いの場を幻術魔法を使って闘技場の遥か上空に変えた。下を見ると雲の切れ目から小さくなった闘技場とヤクル村中学校が見える。足元を支えるものは何もない。


「うわっ」


 慌てて足をバタバタしながら落下するタト。高所での戦いになることは予選会準決勝のカシス対フローラ戦で予測していたが、高さも違うし何より足場が存在しない。


 同じスピードで落下するフローラがニヤリと笑う。


「地上に落ちる前に負けを宣言しなさい。でないとタトも私もグチャグチャになるわよ」


「フローラ。それはできない相談だね」


 いくつもの雲を突き抜けて加速しながら落下する二人。


「なら地上に着く前にタトを倒すわ」


 そう言ってフローラは出し惜しみすることなく早くも三人に分裂した。三つの剣が四方八方からタトを襲う。木刀に姿を変えたにょい棒でそれを受けるが、剣が放つ衝撃は三本とも本物だ。


 くっ。足場がないから踏ん張れないや。


 剣を受ける度に前後左右に体がブレる。次第にフローラの剣におされていくタト。


「これならどうだ」


「「「えっ」」」」


 木刀を残してタトの体が消えた。


「「「透明になったって剣の位置で体の場所がバレバレよ」」」


 タトを囲むように落下する三人のフローラ。三つの剣がタトを心臓がある位置をめがけて襲いかかかる。


 ガチン。


 三つの剣が空を切りぶつかり合う。危うくぶつかる寸前だったフローラは体を一つに戻してそれを避けた。


「残念だったね、フローラ。僕はここだよ」


 木刀から声が聞こえるがタトの姿は何処にもない。空中を落下する木刀が宙を舞いフローラに襲いかかってくる。


 木刀そのものがタトなの。それとも遠隔魔法なの。


「うそっ」


 ようやくタトを見つけたフローラは思わす声を漏らした。アリよりも小さくなったタトが木刀を振り回しているのだ。


「へへっ。見つかったみたいだね。だけど、小さな僕をそんな大ぶりの剣で斬れるかな」


 確かに厄介だ。フローラの剣は高速の剣。カシスの精密の剣とは違う。小さな的を射抜く制度は持っていない。


「そうかしら。戦いが長引けば二人とも地上にぶつかってお終いよ」


 体を小さくしてもタトの重さは変わらない。でなければ木刀を振り回すことなんてできっこない。


 タトもそのことを理解していた。それどころかにょい棒の重さ一トンもあるのだ。落下を回避するのは不可能だ。


「なら我慢比べだ。どっちが落ちる恐怖に耐えられるかだな」


 臆病なタトの口から出た言葉とは思えない。


 タト・・・。いつの間にそんなに強い精神を・・・。


 迫ってくる地上。加速する二人。フローラは根負けして幻術魔法を解いた。その瞬間、二人は闘技場に立っていた。


「やるじゃない、タト。見直したわ」


「へへっ。僕だっていつまでもやられっぱなしじゃないってことさ」


 元の姿に戻ったタトは木刀を一振りして構えた。

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