019 実戦訓練①

「では始めるです」


 裏山につくと、リセ様は武器を手にすることもなく事も無げに言い放った。かまえるそぶりもない。対する僕は木刀を握り、今まさに彼女に飛びかかろうとしている。


 無防備でいたいけな少女に襲いかかる暴漢みたいだぞ。本気でかかっていって大丈夫なのか。


 リセ様がとんでもない強者だと理解していても、気持ちに迷いが生まれる。


「来ないならこちらから行くです」


 ドーン。


 顔面へのワンパンチで吹っ飛ばされた。


 バキ、バキ、バキ。


 山の木を数本背中でなぎ倒してようやく止まる。


 マジかよ。メチャ速いパンチ。しかも重い。あんな小さな体から放たれたなんて信じられない。


 リセ様を正面に見据え、鼻から流れ落ちる血を腕のこうで拭う。態勢を崩さないようにしながら木刀をかまえる。


「フローラさんの剣はもっと速いですう」


 ニカッと笑うリセ様。


 今のパンチすらよけ切れない僕がフローラと戦っていたら一秒と持たずに場外に飛ばされていたかもしれない。


 よけられないなら受けてそらす。聖女ティア様の回復魔法があるからリセ様にケガを負わせてもなんとかなる。


 リセ様は口角をあげてニヤリと笑う。


 来る。


 僕は木刀をかまえて飛び込んでくるパンチを振り払った。一撃で腕の骨を断つような強烈な振りは空しく空を切る。


 ドーン。


 バキ、バキ、バキ。


 またもやワンパンチで吹っ飛ばされた。またまた、山の木を数本背中でなぎ倒して止まる。


 このままいったらはげ山になるだろ。リセ様は千年木だろ。それでいいのかよ。


「タト、チョロいですう。カシス君の剣はもっと正確に急所を捉えるですう」


 物理魔法で相手を翻弄(ほんろう)し、精密の剣で正確に急所を狙い、一撃で相手を倒す黒魔剣士カシス。決勝戦の相手がカシス君なら僕は死んでいたかもしれない。


「タトはパワーも速さもあるけど全然だめなのですう。動きが単調で丸分かりなのです。私の剣を良く見て学ぶです」


 そう言ってリセ様はその辺に落ちていた小枝を拾った。


 シュパッ。バシ、バシ。シュン。ビヒュ。


 リセ様の持つ小枝が縦横無尽に僕に襲いかかってくる。フローラの高速の剣の動きだ。


 僕は木刀でそれを払う。


 カン、カキン。パシ、パシ、バヒュ。


「そうです。実戦はリズムなのですう。頭で考えたら遅れるです。感じるままに動くです」


 ドーン。


 バキ、バキ、バキ。

 

 三度目のワンパンチ。吹っ飛ばされる僕。小枝の剣は目くらましかよ。


「脚もあるです」


 飛ばされた僕めがけて飛び込んでくる強烈なキック。ミゾうちにヒットして僕は呆気なく気を失った。

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