020 実戦訓練②
目が覚めると森が元通りになっていた。聖女ティア様が折れた木々に回復魔法をかけて回っている。
離れたところにある闘技会場の上でフローラとカシスが静止している。気を失っても僕の時魔法は有効らしい。僕とリセ様が戦っているなんて聖女ティア様以外は誰も知らない。
何度も何度もリセ様にぶっ飛ばされながら、僕は少しずつ実戦の感覚をつかみ取っていく。ボロ雑巾のように体は傷だらけになったけど、心は思いのほか元気だ。
何かを学び取ることがこんなに楽しいなんて知らなかった。自然と笑みがこぼれる。やっぱり戦いは相手あってだと実感する。
戦いはリズム、そして変化。相手の筋肉の微妙な動きで攻撃を予測し、受けの中からチャンスをつかみ取る。
「今だ」
僕の放った突きがリセ様を捉える。リセ様の小枝は砕け、僕の木刀を拳で受けて少女は後ろにはじけ飛んだ。
「今のは、いい突きだったですう」
僕の渾身(こんしん)の突きを受けても平気な顔で戻ってくる。その姿がルンルン気分でお散歩する幼女に見える。
「スピード、正確性。いずれも合格ですう。これならフローラさんの高速の剣にもカシス君の精密の剣にも勝てるですう」
子犬が主人の胸に飛び込むかのように抱きついてくるリセ様。メチャクチャかわいい。って、僕、ずっとこの子にやられっぱなしだったんだけど。
聖女ティア様が横でジト目で僕を見上げている。気まずい。
「リセ様、次は魔法の修行ですね。タト君のお相手は私、ティアがやらせていただきます」
聖女ティア様が意味深な笑みを浮かべた。
ティ、ティア様ー。怒ってます、すごく怖いんですけど。
「タト君。私は聖女になる前は魔導士でした。五歳で物理魔法を習得し、八歳で幻術魔法を極めました」
聖女ティア様の美しい姿から魔法を駆使して戦っている姿がまるで想像できない。
「そっ、そうなんですか」
「タト君は準決勝で勝ちあがってくるフローラさんかカシス君に決勝戦で勝たなければなりません。ですので私は手加減なんかしませんよ。タト君を全力で倒すつもりで戦いますので覚悟してくださいね」
僕に抱きついているリセを睨みつけるように言い放つ、聖女ティア様。絶対に私情が絡んでますよね。リセ様に嫉妬してますよね。
プイっと頬を膨らませて怒った顔をしていた聖女ティア様の顔が急に真っ赤になっていく。先ほどとはうって変わった弱々しい声をこぼす。
「あのです、タト君」
メチャメチャかわいい。気を引き締めなきゃいけないのに心がとろける。
「はい。聖女ティア様」
「そのです、タト君」
見つめ合う二人。
「ええ」
「修行が終わったら、あの、その、リセ様みたいに・・・」
「はい。リセ様みたいに・・・」
「私をハグしてくださいね」
「はい、ハグします」
って、ええー。そういう展開だったのですか。のせられて思わず答えてしまった僕の顔から蒸気が噴き出た。
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