017 予選会準決勝 カシス対フローラ戦②

「大丈夫です。二人の魔法は派手ですが、互いに致命傷を負わすほどの威力はありません」


 確かにフローラの幻術魔法は強烈だが、殺傷能力は実質ゼロに等しい。恐怖に打ち勝ちさえすればやりようがないわけじゃない。


 一方、カシスの物理魔法もメチャクチャ凄いけど、身を守る魔法だって無いわけじゃない。事実、タトは対リテル戦でトロルに放ったアイスシールドの魔法を、人知れず観客席全体に展開し、生徒たちに被害が出ないようにしていた。


「派手な魔法は魔力を著しく消費します。ほら、二人とも気づいたみたいです」


 聖女ティア様の言う通り、フローラの幻術魔法が解除されて闘技場の床が戻ってくる。カシスの燃え盛る火柱もそれに合わせて消えていく。


「さあ、これからが本番です。フローラさんもカシス君も基本(ベース)は剣士です。最後は剣による決着になると予測してました」


 聖女ティア様。やっぱり凄いや。独り慌てふためいていた僕には、まだまだ冷静な判断力が不足している。


「聖女ティア様。フローラもカシスも王立魔剣士高等学園に入学できるだけの実力は十分あると思います。一度も入学者を出したことのないヤクル村に、今年に限ってこれ程の実力者が集まったのは偶然なんでしょうか」


 僕は心に浮かんだ疑問を聖女ティア様に投げかける。


「偶然は必然でもあります。時代が大きく変わろうとしている時、転生者は招かれ、その力が周りに影響して力を生み出すと言われています」


「もしかして原因は僕」


 聖女ティア様の意外過ぎる返答にオロオロするしかない。


「そう言うことになります」


 聖女ティア様は僕を見てにこりと笑う。


「僕を呼んだのは誰ですか」


 魂の奥底から湧き上がってくる制御できない恐怖の力。この力のことについてもっと知りたい。


「私にはわかりません。だけどタト君はこの世界にとって必要だから、今、ここにいるのです。フローラさんも、カシス君も、私も同じです。ビフ君やリテル君も同じです。世界には不要なモノなんで存在しません。すべてが役割を持ちこの世界に存在するのです」


 聖女ティア様のお言葉は難し過ぎで僕には理解できなかった。だけど、共感できる何かを感じて僕は自分を信じることにした。


「さあ、フローラさんとカシス君の戦いが再開しますよ。どちらが勝つか見とどけましょう」


 闘技場の上で向かい合って立つフローラとカシス。互いに仕掛けるタイミングを伺っている。


 一瞬二人の姿がブレたように僕には見えた。次の瞬間、闘技場の上には審判アリル先生を残して二人の姿は消えていた。


「あっ。消えた」


「消えたわけではありません」


「聖女ティア様、フローラの新しい幻術魔法ですか」


「違います。二人の動きが速すぎて目が追いつかないだけです」


 観客席ではタト同様、何が起きたか理解できず、ポカンと口を開いている生徒たちが大勢いた。


 速すぎって言われても・・・。見えない相手なんて戦いようがないぞ。僕は困惑するしかない。


「タト君なら二人の動きが見えるはずです。心を落ち着けて風の音や、チリの動きを感じるのです」


 僕は目をつむる。千年木の前で修行した時のことを思い出す。何度も何度も無心で剣を振り続けた。剣が風を切る音。僕が飛び跳ねる度に舞い散るチリ。心が澄んでいく。


 再び目を開いた僕の目の前で、二人は激しく剣を交えていた。


「ティア様、見えました。僕にも二人の戦いが見えます」


 フローラの繰り出す剣が前後左右、縦横無尽にカシスに襲いかかる。カシスは紙一重でそれをかわしながらピンポイントで剣を繰り出す。


「すっ、すごい。あんな戦い方、見たことない」


 僕の心は感動で熱くなっていく。にぎった拳(こぶし)に力がこもる。気がついたら僕は彼らの動きを追うだけじゃなく、自分ならどう戦うかをイメージしていた。


「タト君、体がぴくぴくしてますよ」


「あっ。すみません。聖女ティア様」


 声を掛けられて自分が恥ずかしいことをしていたと気づく。


「二人の戦いのリズムに合わせることができるんですね」


「えっ、いや、その。そんなつもりじゃ」


 僕はティア様に向かって顔を赤くした。はずかしい。


「で、二人の剣に勝てますか」


 聖女ティア様が真剣な眼差して僕を見つめている。

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