016 予選会準決勝 カシス対フローラ戦①
タトと聖女ティアが予選会会場の観客席に戻るとカシスとフローラの戦いはすでに始まっていた。
「ティア様・・・。闘技場が無くなってます」
僕も戦いの場面で石の床を少しばかり壊してしまったが、目の前の光景はそんなものじゃなかった。
カシスとフローラは、かろうじて足を置ける石板一枚のいただきに立っている。そこ以外は底なしの断崖絶壁。
一歩足を踏み外したらどこまで落っこちるか分かったもんじゃない。どんな戦い方をしたらこんなことになるんだ。それに二人とも動けないぞ。どうやって戦うんだ。
「フローラさんの幻術魔法です」
「フローラの幻術魔法。ってことは今見えるのは幻(まぼろし)で、実際は闘技場の床があるってことですか」
僕は目をこすって闘技場をもう一度見るが幻術魔法でこれ程のリアルさが出せるのだろうかと驚嘆する。
「闘技場の床はあるにはあるのですが・・・。一歩踏み出せは落ちる」
「ティア様、言っていることが理解できません」
落っこちるなら無いってことですよね。
「カシス君も私たちも既にフローラさんの幻術魔法にはまっています。視覚だけじゃなく、感覚すべてが歪んでしまっているのです」
すべての感覚を歪ませる幻術魔法なんて聞いたことない。
身動きできないカシスに対してフローラが先に動いた。
疾風のように空中を走り、カシスに高速の剣を見舞う。
「デ、ディア、ディアー」
掛け声と共に繰り出される強烈な刃をカシスは自分の剣で受けるのみ。衝撃がカシス君の体を伝い、足元にわずかに残った石板が、ポロポロと欠けて地の底へと落ちていく。
カシスの敗北も時間の問題と誰もが思った刹那(せつな)、彼はニヤリと笑って瞳を閉じた。
「ふふっ。カシス、手遅れだわ。あなたはもう私の幻術魔法を見てしまった。今さら目を閉じても落ちるわよ」
フローラも一旦自分の石板の上に戻り、口角をクイっと上げて返す。
「そうだな。だがこれならどうだ」
グ、ゴゴゴゴ-。
大地震のように大地が震えた。無くなった闘技場の下の闇から真っ赤に燃えたマグマが垂直に噴き上がってきた。観客席まで火の粉が飛び散ってくる。
「アチチ。ティア様、これは幻覚じゃなくて本物ですよね」
タトは聖女ティア様に火の粉がかからないように体を楯にしてたずねた。
「カシス君の炎(ほむら)の物理魔法です。大地を割りマグマを呼び寄せました」
「中学生のレベルじゃないんですけど」
タトは呆気にとられる。
「そうですね。私も二人がここまでの強者(つわもの)だとは思いませんでした」
聖女ティアはニコニコして嬉しそうだ。
「幻術魔法と高速の剣の使い手、白魔剣士のフローラさん。対する物理魔法と精密の剣を操るカシス君。互角の戦いですね」
二人とも一歩も動けなくなり膠着状態。
「感心している場合ですか、聖女ティア様。あんなパワーで激突したら大ケガなんかじゃすみません」
タトは幼なじみのフローラが心配になった。見ているこちらの方がハラハラしすぎで心臓が止まりそうだぞ。大丈夫なのか、フローラ。
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