014 予選会準決勝 ビフ対タト戦②

 真っ黒で禍々しい何かが僕の中に生まれる。その何かが黒いドロドロとした塊となってビフから受けた傷をみるみる修復していく。


 大地を粉々に砕けるだけのエネルギーが僕の中に集まってくる。苦しい。息ができない。なんだよこれ。


 自分が自分でなくなる予感。恐ろしい。


『いけない。タト君。その力を開放してはダメ』


 頭の中に聖女ティア様の声が響き渡る。


 観客席にいた聖女ティア様の全身が眩いばかりの白い光に包まれる。その光が宙を飛び僕の体を包み込んだ。


 心地いい。怒り狂った僕の中の何かが収まっていく・・・。


 聖女ティア様・・・。


 僕は白い光のエネルギーをリミッター魔法に変換して、湧き上がる黒いものを抑え込んだ。


 両肩を震わせながら呼吸を整える。もう大丈夫だ。普通に戦える。


 ビフを見る。いつの間にかビフは僕から距離を取って立っていた。


「ふん。死に損なったか。タト」


「ビフ。黒髪の転生者ってのは何だ」


「さあな。俺にも良くわからん」


「ふざけるな」


「タト、お前がまだ神童と呼ばれていたころ。俺を襲った魔物を倒した時。あの後、黒服の老人が俺に教えてくれたのさ」


「何をだ」


「黒い髪の少年はこの世界に存在しない。外の世界から転生してきた者だとな。タト、お前の名前は本当はタトじゃない。『外(そと)』を表す別世界の言葉だってな」


「『外(そと)』を表す別世界の言葉」


「神童と呼ばれるお前の力はその事に由来する。俺は呪ったぜ。なぜそんなものが存在する。なぜその力はこの世界にない。その力を持つものがお前で、なぜ俺じゃない」


「力を失った僕を侮辱し、イジメ、挑発し続けたのは僕を怒らすためだったんだな」


「ようやく理解したようだな。俺のプライドはな、百パーセントのタトを倒さないと先に進めないんだよ。ヤクル村の神童タト、黒髪の転生者タト。気に入らねーんだよ」


 ビフをまとっていた闘気が消えていく。


「そんなものをこの村に残して王立魔剣士高等学園にいけるかよ。くそっ。あの時、黒服の老人からもらった力もここまでか」


 ビフはシャツの襟から手を突っ込んで革製のヒモを引き出す。その先についている飾りの中に納まった真っ黒なクリスタルが割れていた。


 ビフは会場を見回す。次の予選会準決勝の為に集められたフローラとリテルに向き合う。


「悪いが俺は棄権する。まだ死にたくないんでな。後のことは次の試合で勝った方にゆずる」


 そう言い残して闘技場を自分から降りるビフ。赤いボサボサの髪をガシガシとかきむしるビフの瞳から悔し涙がポトリと落ちるのを僕は見逃さなかった。


 その時僕は気付いた。もしビフがいなかったら。ビフに対する悔しさ、口惜しさが僕に修行を続けさせてきたんじゃないのか。


 ビフのやり方は正直どうかと思う。もっと他にやり方があったのではないかと感じる。彼の性格が災いしたのも事実だ。


 だけど・・・。


 去りゆくビフの後姿に向かって僕は感謝を述べた。


 ありがとうビフ。


 こうして僕とビフの因縁の対決は終わりを告げた。

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