012 予選会 リテル対タト戦②
立ち上がるトロルの頭を見て観客たちがどよめく。痩せこけたリテルの上半身がトロルの額から角のように生えている。正直グロい。
魔物人結合。マジかよ。力はあるが攻撃が単調で頭の弱いトロル。対して力はないが悪知恵だけは働くリテル。ベストマッチング。
なんて感心している場合じゃない。ってか、トロルの中にリテルが半分吸収されてんじゃねえか。
「タト君。危険です。このままだとリテル君がトロルに吸収されてしまいます」
観客席から聖女ティア様の声が飛んでくる。
「未熟すぎる魔法は自(みずか)らを滅ぼします。魔物の魂をなめてかかってはいけません」
立ち上がるトロル。いやリテル。
「聖女様の声が聞こえたか、リテル。早く魔法を解くんだ」
「親父に買ってもらった回復薬、最高だぜ。愚かな人間なんて食らいつくしてやるわ。グギグギー」
痛めたはずの左脚をバンバンと床に打ち付けて吠える。口からトロル同様によだれを垂れ流すリテル、正気じゃない。
くっ、ヤバいことになった。リテルが吸収される前にこいつを倒さないと。
しかし、リテルと合体した為かトロルの動きが格段に良くなっている。直線的だったこん棒の動きが複雑化して予測しにくい。
さらにリテルは魔石(クリスタル)が盛り沢山の杖を振るって、ちょこまかと火球を打ち込んでくる。
観客席にこぼれ球が飛ぼうがおかまいなしに打ち込まれる火球に対して、僕はあまり得意とは言えない魔法で対抗することにした。
氷の盾を作り出して火球を食い止め、素早く盾を飛び越えてトロルを討つ。これが僕の考えた作戦だった。
僕はアイスシールドの魔法を心の中で唱える。
シャキーン。
あれっ。
展開された氷の盾はリテルと合体したトロルよりもはるかに大きく、彼らを飲み込む巨大な氷柱とかしていた。
呆気にとられる観客。それ以上に茫然とする僕。
何だこれ。
僕は氷柱に向かって歩き、ガラスのように透き通った中を覗き込む。
攻撃態勢のまま凍りつくトロルとその頭にくっついたリテル。時が静止したかのようにピクリとも動かない。
「すごいです、タト君。相手を傷つけることなく、トロルの動きとリテル君の動きを止め、さらに吸収の力まで封じでしまうなんて」
観客席から聖女ティア様の声が飛んできた。その後に続く拍手喝采。そんな予定じゃなかったと僕は赤面して固まるしかなかった。
その後、聖女ティア様の回復魔法でリテルはトロルと分離され、救出された。
リテルの取り巻きたちは金づるが無事だったことに安堵の溜め息を漏らす。リテルは彼らに抱えられて退場した。
グギギギギ。
「聖女ティア様、何ですかこいつ」
僕の脚に絡みついている小さな魔物。口からよだれを垂らしながら僕の脚に噛みつこうとしている。
「何って魔力を失ったトロルですけど・・・」
えっ、ええー。あの巨大で不気味なトロルがコレ。何だか倒してしまうのも可愛そうだ。
「ずいぶんと懐かれたみたいですね」
フフフと笑う聖女ティア様。
「とても困るんですけど・・・」
「トロルの本当の姿は小さな妖精です。魔王の魔力で魔物にされてしまった悲しい一族です」
「はあ」
まさか飼いたいなんて言い出さないよな、聖女ティア様。じっちゃん、ペットは大嫌いって言ってたし。
「あのだな。取り込み中だと思うが・・・、その・・・、そのキュートな生き物をだな、私にくれんか、タト。頼む」
ペコリと頭を下げるアリル先生。白銀の髪からのぞく美しい顔がピンク色に染まっている。
キュートですか。こいつが・・・。いやまあ、人には色々な趣味嗜好があるから否定はしないけど。
「どうぞ」
僕は自分の脚に絡みつくトロルをつまんで、アリル先生に渡した。アリル先生はそれを受け取ると赤ん坊でもあやすかのように胸に抱えて、目を細めた。
グギギギギ。
アリル先生・・・。トロルが巨乳に押しつぶされてんですけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます