007 乱入者
「じっちゃん。ただいま」
家でのいつものじっちゃんのラフすぎるスタイル。恥ずかしいやらビックリしたやら。もう脅かさないで欲しい。
「おう、タト。今日はずいぶんと遅かったな・・・」
じっちゃんは玄関前に佇む聖女ティア様をみとめて固まった。僕は彼女のことをどう説明して良いのか分からず事実だけを告げた。
「じっちゃん。僕、彼女のナイトになったんだ」
彼女が聖女様であることがどうしても口から出ない。やられっ放しの僕の言うことを信じてもらえるだろうか。
「へっ」
じっちゃんは、聖女ティア様の姿を見つめ、目のたまが飛び出すくらい見開いて驚きの表情を浮かべながら後ろに大きくのけ反った。
ゴキ。
「あいたたたた。タト、冗談ぬかすな。腰を痛めただろ」
腰をさすりながらじっちゃんは聖女ティア様をもう一度見る。彼女は慌てて頭を下げた。
「はじめまして。聖女ティアと申します」
「せっ、聖女様・・・。本当に聖女様であられまするか」
聖女ティア様は答える代わりに眩いばかりのオーラを身にまとってみせる。その神々しさに魅了される僕。
が、じっちゃんには刺激が強すぎる。おおぎょうに後ろに倒れて尻もちをつく。
「なっ、なっ、なっ、なんとありがたき光じゃー」
ピョンと後ろに飛びのいて膝まずいて両手を合わせるじっちゃん。腰を痛めたんじゃないのか。言葉も行動もしどろもどろだぞ。
「たっ、タト。なっ、何をしておる。お前も床に膝をついておがまんか」
慌てぶりが半端ない。ちょっと情けなくなってくる。
「じっちゃん。大げさすぎるよ」
「バカ者。聖女様だぞ。ああ、なんておそれ多い」
「頭を上げてください、おじい様。そんなに畏(かしこ)まれるとお話ができません」
聖女ティア様がしゃがみ込み、じっちゃんの肩に手を添えて顔を上げさせる。
「なんと神々しいお姿。あの世に行く前に聖女様にお会いできるとは思わなんだ」
じっちゃん・・・。そりゃーまあ、ヤクルの村に聖女が降臨したなんて僕も聞いたことないけど・・・。
「この度、私、聖女ティアはタト君をナイトとして任命いたしました。タト君も私を聖女として承諾してくださいました」
ようやく顔をあげたじっちゃんはまたも尻もちをつく。
「たっ、タトに聖女様がおつきになっただと。夢じゃないよなタト」
じっちゃん、玄関前で泣かんでもいいだろ。恥ずかしすぎる。でもちょっと誇らしい。こんな気分で家に帰ったのは何年ぶりだろうか。
「ここじゃ何だから取りあえず家の中に入ろうよ」
三人で家に入り、玄関のドアを閉めた時だった。
バーン。
閉めたはずのドアが勢いよく開かれる。ものすごい勢いで何かが飛び込んできた。
「タトー。やっと帰ってきた!」
僕に絡みつくようにくっついて甘えるのは隣りの家に住む幼なじみのフローラ。同い年だけど僕より少し背が高く、金髪ショートヘアの元気女子。もちろん剣も魔法も僕なんかより、ずっとずっと遥かに強い。
「心配したんだよー」
同い年の中学生にしては発達しすぎの胸をワザと押し付けて、オドオドする僕の様子を楽しむ姉さん気取り。
「えっと。幼なじみのフローラです」
僕は向かいの椅子にチョコンと座り、キョトンとしている聖女ティア様にフローラを紹介した。
「たっ、タト。だれ、この子」
ようやく来客があることに気付くフローラ。まるで周りが見えていない。
「聖女ティアと申します」
銀髪の長い髪を垂らして深々と頭を下げ、挨拶するティア様。いつもと違って口調にトゲが・・・。
幼なじみのフローラは怪訝そうに顔をしかめる。僕の方を睨みつけてぷくっと頬を膨らました。
あれっ。ものすごく気まずいんだけど。何かとても面倒なことになりそうな予感。
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