004 運命の人
災いをもたらす程の強力な力ってなんだ。まるで想像できない。聖女様がわざわざこんな村まで派遣されるとなると、ただ事じゃないぞ。
「聖女ティア様は僕が災いを起こさないようにヤクル村に遣わされたのですか」
「それもありますが、私が・・・、その・・・、タト君が・・・」
真っ白な顔を耳まで赤くして聖女ティア様は口ごもった。うつむいてモジモジしだす。
メチャメチャ可愛らしい。
「タト君が私の運命の人だからです」
突然顔を上げると、一言いい残して彼女は恥ずかしそうに中学校の方へ走っていった。銀の髪を揺らしながら走る後姿が絵になっている。マジ、美しい。
「僕が聖女様の運命の人なのか」
『若い者は良いのー。おいタト、何をしておる。男だったら早く追っかけるのじゃ』
何だかよくわからないけど僕は彼女を追うことにした。千年木様に向かってペコリと頭を下げる。
「千年木様、ありがとうございます」
『いやはや、明日の予選会が楽しみじゃ。何か困ったことがあったらワシの所に相談に来るがいい。千年の知恵を授けるぞよ』
僕は千年木様に別れを告げて、にょい棒を拾い上げて彼女の後を追った。
「待ってください。聖女ティア様」
校舎の近くで彼女に追いつく。と、そこにビフがいた。
「誰だお前。ヤクル中学校の人間じゃないな」
聖女ティア様はビフに礼儀正しく頭を下げて挨拶する。
「聖女ティアと申します。明日からヤクル中学校の三年生のクラスに転校することになりました。よろしくお願いします」
えっ。聖女ティア様、ヤクル中学校に転校してくるの。しかも僕と同じ三年生。ヤクル中学校は小さい学校だから三年生は一クラスしかない。クラスメイトになるってことなのか。
「聖女がこんなど田舎の学校に転校してくるなんて聞いてないぞ。まあ、可愛いからどうでもいいが」
ビフは鼻の下を伸ばして、新しい獲物でも見つけたかのようにいやらしい目でティア様の体を舐めるように眺める。不穏な視線を感じた聖女ティア様は一歩後ずさる。
「お褒めいただきありがとうございます」
それでも可愛いと言われたことにお礼を述べるあたりは、育ちの良さがヤクル村のガサツな人間達とは違うと言う事か。
「よし、決めた。俺の名はビフ。来年、王立魔剣士高等学園に入ることになっている。ティア、お前、聖女なら俺をナイトに任命しろ。いいか、これは決定事項だぞ」
ふんぞり返って聖女様に向かって命令するビフ。単細胞のビフが言い出しそうなことだ。失礼にも程がある。
僕は聖女ティア様とビフの間に割って入る。
「ビフ、悪いけど聖女ティア様のナイトは僕だ」
「はあっ。やられっぱなしで誰よりも弱いタトがナイトだと。こいつは笑える。聖女が聞いてあきれるな。まるで人を見る目がない。美人の癖に頭はポンコツかよ」
巨漢のビフは僕を見下ろすように睨みつけてくる。いつもやられっぱなしなので体が無意識に逃げようと反応してしまう。
怖い。
怖いけど逃げちゃダメだ。
ここで逃げたら男じゃない。
僕はヘタレな心を奮い起こしてその場に踏み留まった。
「聖女ティア様を侮辱するな」
くっ。声が震える。
「おや、タト。俺にはむかうつもりか」
僕はビフの攻撃に備えて千年木にもらったにょい棒をかまえた。手がガタガタと震えている。緊張で全身から変な汗が噴き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます