003 千年木様のギフト
僕は半信半疑で折れて短くなった剣を握り、何年も傷一つ付けられなかった巨木と対峙した。
聖女ティア様が短くつぶやいて呪文を唱えた。瞬く間に体が軽くなる。折れたとはいえ、鉄でできた剣なのに鳥の羽ほどの重さも感じない。
自分が自分じゃないみたいだ。今ならやれるかもしれない。この木を真っ二つに!腕に力を貯めている最中だった。
『やっ、やめてくれんか』
頭の中に老人が発するようなしわがれた声が響きわたる。
「聖女ティア様、今、何か聞こえませんでした」
「はい。頭の中で・・・」
『そんな力で斬りかかられたら、いくら千年木のワシでも倒れてしまう』
「木がしゃべった」
僕と聖女ティア様は目の前の巨木を見つめてから顔を見合わせる。
『そこの時魔法を使う少年の相手をしてきたから実際は二千年生きておるがの。だからこそ、その少年の実力は知っておるぞ。頼むから斬らんでくれ』
リミッターを解除されたためか、感覚が鋭くなって巨木を包み込むような緑色のオーラが見える。
「鉄の剣で叩いても傷一つつかなかったのはそのせいですか」
『ふん。千年も生きていれば、動けんでも知恵も魔力も宿るわ。更に千年分の修行に付き合わされたんだぞ』
頭の中に響いてくるしわがれ声に怒気は感じ取れない。僕は少しばかりホッとする。
「ごめんなさい。知らなかったんです。本当にご迷惑をおかけしました」
僕は巨木に向かって頭を下げた。
『なに、なに。こちらも退屈せんですんだわい。タト君は素直で一途じゃのー。ワシを斬らんと言うなら褒美(ギフト)をやろう』
木の中から一本の棒が飛び出してくる。
『にょい棒と言う別世界で考え出された武器じゃ。硬さとしなやかさを兼ね備え、変幻自在に伸び縮みする天下の秘宝だぞ。大事に使え』
僕は折れた鉄の剣を放して、宙に浮くその棒を握りしめた。
「聖女ティア様、いかがしましょう。僕は剣の修行はしましたが、こん棒も槍も使ったことがありません」
僕が動揺していると手の中の棒が程よい剣の長さに変形した。
「木刀なら僕でも扱える」
僕はにょい棒をブンブンと振り回してみる。にぎり心地もグリップの太さもちょうどいい。これなら明日の予選会を戦える。
「ありがとうございます。千年木様」
『ほう。やはりワシのみ込んだ少年だ。にょい棒をやすやすと振り回すとは・・・。実に満足だ』
「タト君。凄いです」
あれまっと言うような顔をする聖女ティア様。
「はあっ。いくらやられっぱなしの僕でも木刀くらい振れます」
『少年タト、そのにょい棒には欠点がある。小さくなっても一トンの重さは変わらんのじゃ』
「一トン」
驚きのあまり思わず手を離してしまった。
ドスン。
落下したにょい棒が大地にめり込む。
マジかよ。僕はそんなものを振り回していたのか。
『どうじゃ。怪力と呼ばれるミノタウロスでも一撃で撲殺できるぞ』
「はい。それがリミッター魔法をほんのちょっとだけ解除したタト君の真の力です」
聖女ティア様が横でにこにこと笑っている。
ミノタウロス。A級の冒険者でも手こずる魔物と聞いているんだけど・・・。この僕にそんな力が宿っているなんて信じられない。
「あのー。聖女ティア様。そのリミッター魔法を全部解除したらどんな事になるんですか」
「私にもわかりません。ただ、使いこなせない力は災いをもたらします。だからタト君には私が必要なのです」
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