猛将
ミコトの預言のあった翌朝、イサナは
「よう、朝っぱらから集まって貰って悪いな」
奴国の三猛将とは総勢四千名の奴国兵の頂点に君臨する三名の兵である。
この武勇たるやまさに猛将の名にふさわしき豪傑で、猛将一人いれば百人分の武勲をたてるほどだったという。
「ほんとじゃで。今日は市場に愛娘を連れ出してやろうと思うとったのにのぉ」
力強く生え揃った武将髭と根菜のように太く膨れた鷲鼻が特徴的な大男である。
イサナの幼なじみでありかつて国王の座を取り合った喧嘩仲間でもあった彼は
「まぁそう言うな。話終えたらすぐに解散にするからよ。ほら、これでルコちゃんに後で美味いもんでも食わしてやんな」
「うぉ!砂金!かたじけねぇ!んで話とはなんじゃ?何でも応じようぞ!」
イサナがガオウに投げたのは米粒程の大きさの砂金だが市場で取引される代物の中ではかなり高価なもので大概の品と交換が出来た。
「全く…がめついおじさんね」
弓矢を携えた後方支援部隊——
彼女は遥か先の川のせせらぎですら聞き取れるほどの耳と、闇夜でも昼間同然に見通せる優れた眼を持っていた。
その優れた身体能力を用いて如何なる動物の急所も一撃で射抜くヒノは
元は国無しの狩人であった彼女だが、イサナにその弓術の才を買われ奴国お抱えの傭兵となったという経緯がある。
「僕はガオウ様のそういう欲望に正直な所好きですよ」
戦術指南役のイナト。
敵兵の撃破数のみで言えばガオウとヒノをも凌ぐ戦果を挙げる武勲者であり、歳の程は十五と若いながらも
端正で中性的な容姿をした色男だが、それとは裏腹に下半身が異常に発達しており低音高速走法——
元は
三猛将の出生を見ても分かる通り
「ゆうべ
「ま、
「勝算はあんのか?ナギよォ」
「んーや。お前らも知ってるとは思うがミコトの体調は日に日に悪くなってる。もう今までのように
「じゃあ
「
「兵力に関しても此方が四千に対し彼方は一万ニ千。故に三倍の兵力差があるわ。現状最も天下統一に近い国と言えるわね」
「俺は国王だ。だからこそ
「此度の戦は俺に先陣を切らせてはもらえねえか?」
「!?」
三猛将に緊張走る。
先陣は戦場において命の奪い合いの熾烈な最も死の危険が伴う場所。
剣矢斧槍が無尽蔵に飛び交う先陣をあえて志願するなど自ら死にに行くようなものだ。
ましてやそれが
「正気かよおめぇ」
「いけませんイサナ様!これは小国の小競り合いとはわけが違うんですよ!やっぱり僕は
「ミコトに言われたんだ。俺が戦の先陣を切ることで後に続く兵が臆する無く立ち向かっていけるってな。例えそれがどんな強国であろうとも俺は自分が定めた王道を貫き通す」
「しかしイサナ様…」
「イナト…一番お前が
「しかし…」
「恐怖があるのは当然。でもいつかは戦わなければならない相手であってその時がちょっと早まっただけだ」
「王であるあなたの役目は生き残ることよ。もう
「それは
「ナギよぉ…おめえ本気なんだなぁ?」
「あぁ。此度の戦の総指揮はお前に任せるぞ、ガオウ」
「けっ、つまんねえ役押し付けやがって。まぁ儂は優しいからよぉ。おめぇに死に花くらい咲かせてやるよ」
「死なねえよ。
宮室の囲炉裏で先程から土鍋で何かを煮ていたようでイサナが土鍋の蓋を開けると白い湯気と共に赤い梅の入った米粥が出来ていた。
「願掛けの
土釜で炊いた米粥に太陽に見立てた紅梅を入れた飯を位の高い順にお碗によそっていく。これは同じ釜の飯を共有することでお互いの絆を深め、太陽との一体感を高めることが目的だ。
まず王であるイサナに最初に陽の飯が盛られ、次に千人長のガオウ、弓兵隊長のヒノ、そして最年少であるイナトへと陽の飯が行き渡った。
「
時代のうねりは更に加速度的に広がっていく。
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