第17話

「自分のために願いを叶えるのは、もうやめようと思うんだ」


 またソラシドが唐突に目を覚まして


 なんの脈絡もなく、そんなことを言った


 満天の夜空の下を、滑るように風が凪いでいく


 たまには天体観測もいいだろうと彼女が言ったので


 しばらく、紙飛行機は空を飛ばない


 動かないまま、瞬かないまま


 遠い空に張り付けられたきらめきを


 どんな気持ちで眺めていいのか


 分からないまま、黙っていると


 ソラシドは、思い出したように喋り続ける


「だから最後にきみの願いをなにか一つ、叶えてあげようと思ったけれど」


 なかなか難しいものだね――とソラシドは


 ため息交じりに、ささやいた


「君との付き合いは長いけど、私は、いつも君の肝心なところを知らない」


 似たもの同士だ、とぼくは思った


 ぼくも、ソラシドのことがよく分かっていない


 ずっと一緒にいて、こんなに近くにいるのに


 不思議なこともあるものだなぁ


 ソラシドの言葉の深いところを


 いつまでも理解できないでいると


「どうして」とぼくの口から疑問が零れた


 そこにはさまざまな「どうして」が詰め込まれているから


 決してそれ以上、続かない「どうして」だったが


 ソラシドは、こういう時に勘が効く


 ぼくの肝心なところを知らないくせに


 いつだって、ぼくの言いたいことが分かるのだ


「どんな願いも叶うことほど、虚しいことは無いからさ」


 と、彼女は寂しそうに笑った

 

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