どうして甘いがいいと決めるの

 酸っぱさだっていいじゃないかとはるかのむかしから思ってた。





 味覚というのは、まあ、いろいろあるようで。

 黒板に書かれていくまあるい、なんらかの図。

 甘み……割烹着を着たそこそこ年配のその教師は、まず、その言葉を書く。





『みなさん甘いのというのは味覚なんだとまあ言われればなんとなく理解できますねえ』





 そうやって。

 授業を、受けていた。





 味覚というのはふしぎなものだと、頬杖つきながら午後の授業、考えるでもなく思っていた。

 教師が動く。それはまるでただ単に割烹着が右に左にと平行移動するだけに見えて、わたしは、だれにそれを教えるでもなく、ひとりうつむいてひっそりと笑った。――毎度毎度風紀検査で引っかかる長い前髪が、また、視界をすこし限らせた。





『甘いといえば、なにが好きですかあ、みなさんは、いま流行りのタピオカとかですかあ』









 ここで、ふっ、と笑ってあげられるひとは、優しい。









 授業は退屈に受けていた。

 わたしは高校生の女子だ。



 とってもとっても退屈だ。

 ひまだとか、ほかにやることないのかとかではない。

 そうではなくてわたしはほんとうに毎日が退屈なのだ。

 退屈で。

 退屈で……。









『みなさんは、甘いものが好きですよねえ。女子高生なんてとくにそうですね。女子高生のみなさんは、甘いものをねえ、食べてばっかりですもんねえ。わたしもねえ、そうでしたから……』









 女子高生って言い方――性別を先にもってくるの、やたら、先生は好きみたい。







 わからない。

 ――わからないんだ。









 自分が、なにが好きなのか。









 挙手してみようかと思った。先生。わたし、甘いもの、そんなに好きじゃないんです。むしろ酸っぱいの、好きで。梅干しとか、あとほら酸っぱい系のお菓子とか? そういうのばっかり、選んで食べちゃう。でもわたし高校生で女子だから、甘いの好きじゃなきゃだめですか。甘いの大好きってていで生きなきゃ、もしかしたら、単位さえももらえないんですか。







 酸っぱいことを、甘いことに対して一段下みたいに扱わないでよ――夢想のなかのわたしはそこまで叫んで、でも、そんなこと、……現実的にはできるわけないから、ああ寝ようって、机の上に突っ伏して、――わたしは、意味ない時間に目を閉じた。

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