空は、変わらないから

 空というのはありきたりだと思ってしまう。



 むかしは、空を見上げるのが好きだった。地方都市。私たちの、おもちゃみたいな街。世界の果てみたいにそびえる山々。

 その果ての、さらに上の世界を構築する空というのは、いかほど大きく遠いのだろうと、そう思っては感動で胸を湿らせた。



 学校の、授業で。

 空はあくまでそこにだだっ広く広がるだけで。雲は科学現象として煙のように説明できるし、生きものも飛んではいないんだということ。

 教わったって信じなかった。

 信じたくなかった。

 信じたくなかった、のに。



 ビルの樹木の隙間からでも、空というのは案外に見えるのもだけど。

 こうして見上げる空は景色だ。けっして汚くも醜くもなっていない。けれど、けれどあの日見たほどの感動を空は迫ってこない。どんなに目を凝らしてみたって、世界の神秘に思いを馳せてみたって。空は、空は――もうあのときの親しさをもってして、私に神秘性を開示してこない。




 ……わかってる。

 ほんとうは。



 変わってしまったのは、私のほうなのだと。

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