往けよ、マレビト

 きれいなものにそっとふれさせてくれ。なんだかときおり透き通った水と桜のプールでの共演みたいなものだけ書いてみたくなる、ばからしい。いつまでなにに夢を見てるんだって夢見る少女じゃいられない、けど、それでは夢は終わったのか? わからない。夢うつつな、なかで、生きている。


 うつくしいものをえがくにはきれいじゃいけないんだと知った制服時代の終わりともいえるかの日の、衝撃。じゃあ汚ければいい? そうでもない。偽善も偽悪もたいそうおいしくはあるけれどもそれだけではなんにもならん、なんにもならん。あのねおいしさは満腹中枢を満たしてくれるけれどもうつくしさは、あるいはどこも満たさない。

 おいしさは生きるのにいるけどうつくしさは生きるのにはいらないのかもしれないの、やあ贅沢品。

 それなのにうつくしさを求めるのはどうして? ふらんすは遠いしかといって故郷も遠いよ。かえらばや、かえらばや。


 さよならだけが人生だ。さよならだけが人生ならば。

 どちらにも胸うたれたあの日のうつくしさはいまいかように変質してこころに、あるのか。


 文学、文学。さようなら文学、そして大好きだ文学。

 またはじめましょうとなんどでも言い直すけど、

 私の小説は、けっきょくいかんせんどうにもこうにもでグロテスクになるんだよ、――さあまだ旅路は途中だ、往けよマレビト。

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