A topia

柳なつき

ひとつの、らくえん

 それでも人間の奥底には楽園が湧き出ているんじゃないかという幻想がいまだに捨てきれなくて、そのことが私の歩みをこんなにも遅くさせている。最後のその景色を信じたい。そんなことを思っている私は間違いなく徹底的に、傲慢だ。


 真理を観たと神を視たと、そう強く感じていたころはもちろんほかの感じているものごとも違った。真理のときには真理らしく、神のときには神らしく、私はそうやって世界をみていた。愚かだったし鈍くて醜いいきものだった。それゆえ私は、いまよりずっと天使だった。


 きた、みた、かった。かの帝国にも残るそんな言葉にためらいと無関心を装って内心すごく動揺していた制服時代のとあるとき。かの帝国には楽園性を感じない。けどもだからこそ、きた、みた、かった、なのだろう。ずっと残り。文化として。極東の国の現代の私たちまでも、あっけなく支配をしている。けっきょくのところ支配だなんていうのは、信じることではなく、生活することに直結している。らいふ。らいぶ。Life、Live。


 それでも人間の奥底には楽園が湧き出ているんじゃないかと、

 思って。

 そのことだけが、捨てきれなくて。



 だったら楽園はいくつあるというのだろう。

 ひとの数、ひとの数ほど神さまは楽園を用意してくださっているのだろうか、ああそんなのはただ単に、



 罪深くて。――だから楽園はふらんすのごときに遠い。そう、感じる。

 Theologia viatorum。旅よ、はじまってくれ。

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