第3話 俺と美少女と精霊術
夜があけた。
眠気は感じなくても眠ることは出来た。そりゃあもうぐっすりと。
このベッド最高に気持ちいいです。
ありがとう神様、グッジョブ神様。
休みの日は長時間睡眠とドライブ(ドライブ先でも日当たりがよければ昼寝する)くらいしかしていなかった俺からすればベッドの質は大切なのだ。
今俺がいる世界樹の幹の中の空洞は、前に誰か棲んでいたかのような生活感を感じる内装になっている。
と、言っても今だ起床からずっと寝転んでいるふかふかのベッドと見慣れない工具が並んだ作業机だけだけども。
ベッドはだだっ広いし、作業机はご丁寧に使われていたっぽいナイフや鑢?まぁとりあえず俺が触れたことの無いような道具が綺麗に並べられている。
まぁ今は俺の木らしいしこの工具も使っていいんじゃないかな。
因みに机とベッドには
空腹を感じなくなったが食べる喜びを覚えている俺は供物の中から林檎(ファンタジー世界でも林檎は林檎の味だった)を一つ食べ、今日の日程を考える。
「こうも制限されてちゃ何も出来ねぇしな....」
世界樹からは離れられない。
かといってここで出来ることも少ない。
暫く考えた結果導きだした答えは、ステータスの把握だった。
え、昨日ステータスは確認しただろって?
それがまだ詳細は把握しきってないんだよなぁ。
「あの子が来るまでスキルの効果調べでもしますかね、っと」
ベッドから飛び起き、晴れ渡る空の下、世界樹の根本に生える丁度いい草の上に寝転がり直しては昨日確認したステータスを思い浮かべながら気になる物をピックアップしていく。
浮遊や樹木操作は何となくわかる。言語理解はそのままの意味で、自己回復と豊穣は世界樹の効果かなにかだろう。
そう考えると残りは精霊術だ。
正直な話、魔力というものを全く掴めていない身としては浮遊は兎も角他の魔法を使う方法が分からないのが、現状。
さらには精霊術ときた。知るわけがない。
俺はうんうんと唸りながら片手を空に向けたり力んだりと試行錯誤を続けたが、やはり収穫はない。
「....こんなことなら神さんに色々聞いときゃよかった」
今更後悔しても意味はないけれども、とため息を吐いては上半身を起こす。
するとそこには見覚えのある女の子が立っていた。
何時の間に来たのだろうか。
「やぁ、嬢ちゃん。また来てくれたんだね」
話を聞けそうな人にもう一度会えた喜びでついタメ口で話しかけてしまった。
が、特に気にした様子もなく女の子は笑顔を浮かべて俺に一礼する。
タメ口OKっぽいな。
「こんにちは精霊様、....先日は名前も名乗らずに申し訳ありませんでした。私はこの国の神官のセイラといいます。お好きなようにお呼びください」
セイラと名乗る女の子....これはまだ少女といってもいいぐらいの年齢だな。
セイラと名乗る少女は色鮮やかな美しい金髪に澄んだ碧眼、そして神官らしさのある白を基調にした服から分かるスタイルはかなりのもの。
「じゃあ、セイラって呼ばせてもらうかな。俺の方も質問ばかりしてごめんな、俺の名前は....」
あ、名前どうしよう。
別に元の名前を名乗ってもいいんだろうけど、一度死んだ人間の名前を使うのは如何なものか。
うーん、安直な名前かもしれないけど
「........俺の名前はユグ。迷惑じゃなければこの世界のこと、もう少し教えてほしいかな」
あと魔力の使い方。
「ユグ様....!分かりました、好きなだけお聞きください!」
ぱぁ、と顔色を明るくするセイラは文句無しに可愛い。小動物感があるかわいさだ。
「なにぶん、この世界に来たばかりで分からないことが多くて困ってたんだ、ありがとう」
「セイラ、まずはこの世界樹について教えてくれない?」
"戻った"や生活感のある幹の中からして先代でもいたのかね、
「はい。」
「この世界樹は世界の魔力を作り出していると言われています。そして、不定期で生まれる世界樹の精霊様によってその膨大な魔力を安定させている、とも言われ、ユグ様は新たな精霊様として生み出されたのだと思います」
なにその周期性の守人。
「まず、この世界には大きく3つの高位精霊、三大精霊様がいます。大地の精霊様、海の精霊様、炎の精霊様、そして例外として世界樹の精霊様....ユグ様です。」
「世界樹の精霊は最も魔力を有し、人々の繁栄を手助けする世界樹から生まれた神霊に近い存在で、高位精霊様とはまた別の存在なのです」
分かったような分からないような。
とりあえず、俺は他の精霊とは別物らしい。
今後俺はこの世界樹を守りながら過ごせばいい....のか?
何てこった、悠々自適に美人といちゃついて過ごすのが理想だったのに無駄に壮大な役目を担うことになってしまっていたらしい。
「....因みに俺がこの木を守らなかったらどうなるんだい?」
「三大精霊様がいる限り世界の自然は守られるので被害は....人族の所有する土地が魔力の世界樹の恩恵を得られなくなるので危機に陥る程度でしょうか」
ヒュッ
思ったより規模が大きかった。
「うぅん、ならちゃんと守らないとなぁ。....あ、そうだ。守るにあたって精霊術?を使ってみようとしたけど、魔力の扱い方が分からなくてね」
まず精霊術に魔力を使うのかも知らないけど。
「そういうことでしたらお任せください!私、魔力の扱いには自信がありますので!」
「魔力というのは人族と獣人族なら心臓、魔族なら体内の
そう言うと、セイラはポケットから美しい宝石のような石を取り出して俺に見せた。どうやらこれが魔石らしい。
俺に魔石を見せながら、ですが、と付け足すセイラ。
「ユグ様は魔力を自分のものにするのではなく世界樹から自然と生み出しているので、もしも精霊術や魔法が使いたいと言うのであれば身体の中を流れる魔力を意識するよりも世界樹に触れることをオススメします。きっとすぐにコツが掴めますよ」
「へぇ、...何から何までありがとう。また後で試してみるよ」
分かりやすい説明に俄然やる気が出てきた。
「あっ、でも、私たちのような人族視点の話なのでユグ様のような純正の精霊視点となるとあまり魔力の扱いが分からないというか.....その........申し訳ありません」
ぺしょ、と項垂れるセイラは小動物じみてて可愛い。
こっちは教えてもらえただけ満足なので下げられた頭を上げてもらい、もう一度ありがとうと告げる。
美少女に頭を下げられるのは嬉しいけど気分は良くないからね。うん。
「大丈夫、大丈夫。後は俺が試行錯誤すればいいだけだから。....そうだ、お礼。セイラにお礼をしたい。なぁセイラ、何かしてほしいことはあるかい?」
今の俺に出来ることなんて少ないけど小さな恩返しがしたいんだ。
最初のうちはわたわたと畏れ多いだのなんだの言っていたが、いいからいいからと言う俺に流されて考え込み始めたセイラの眉間に皺が寄る。
「........では、いいでしょうか」
「うん、いいよ。俺に出来ることならなんでも」
にっこりと笑う俺に真剣な表情のセイラ。
「...もし、ユグ様の精霊術に治癒が含まれていたら私の弟を治してはいただけないでしょうか」
....セイラの話によると歴代の世界樹の精霊には強力な治癒能力を持つ精霊術があったらしい。
そしてセイラの弟はその精霊術が必要なぐらいに深刻な、人間の手では治せない病を患っているとのこと。
「...俺の精霊術に治癒能力が無かったら、」
「無理なお願いだとわかっています。ユグ様の精霊術に治癒能力が無ければ....せめて弟に会ってほしいんです。最後に精霊の姿を見るのがあの子の夢だったので....」
「いいや、セイラ。何としてでも俺が治す。治癒能力がなかろうと治す方法を見つけると約束しよう」
俺には夢があった。
幼い頃から、人の命を助ける医者に憧れていた。
あと一歩足りず医学部に進学できなかった為にその夢は儚く散ったが、今、もしも助ける力が俺にあるかもしれないなら、助けたい。
「ありがとうございます、ユグ様....ッ!」
驚いたような顔のセイラの頬には一筋の涙が伝っていた。
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今日のまとめ
セイラの弟を助ける。
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