第4話 銀色のもふもふ
先日、セイラに弟君を助けると約束したものの、俺には一つ不安があった。
俺のステータスに表記された精霊術は"樹木"精霊術。
スキル詳細にはこう書かれている。
〈樹木精霊術〉
世界樹から恩恵を得た精霊にのみ使える精霊術。
世界樹の力と森一帯を自身の力にできる。
世界樹の森がこの森林なのはわかるが、如何せん世界樹から動けない俺が森の力を得てどうしろというのだろう。
"森の力"がどのくらいにまで及ぶのかを最初に確かめなければいけないかもしれない。
手始めにセイラが言っていたように世界樹に触れ、体内の流れとやらを掴むために奮闘した。
「........」
うん、わからん。
案の定何もわからなかった。
助けて先代。
触れたときになんとなく力強さのようなものは感じたが、それ以上の収穫はなかった。
どうしたものかと幹の中に戻って最愛のベッドに寝転がる。
このベッドは前世の高級ホテルにも引きをとらないレベルのふかふかで、かなり気に入っている。世界樹ここ好きポイント。
ベッドに仰向けに寝転がり、なんだかなぁと部屋こと空洞内を眺めていると、一つの違和感に気がついた。
壁の一部にほんの少しだけ色の違う部分があったのだ。
秘密基地感あってええやん....
ただ、色が違うだけで弄りかたも何も分からない俺は何時ものとりあえず、で力一杯押してみた。
開いた。
呆気なく開いた。
ゴゴゴゴ....と重量感のある音を出しながら開いた壁は瞬く間に扉に変化し、その奥に上りの螺旋階段が出現していた。
「ファンタジーや....」
物語の世界に夢を抱く少年のように目をきらきら光らせてたんじゃないかなぁと思う。
小さい頃からツリーハウスとか忍者屋敷みたいな多少の非現実とギミックを見るのは好きだったからね。
螺旋階段を上がった先にあったのは書斎?のような天井の高い空間。
壁には所狭しと本棚が設置され、他には謎の標本や大きな地図が飾られていた。
上の方の本棚に手が届く気がしない。
部屋の真ん中には二人がけ程度のソファと小さなガラス張りのテーブル、そしてテーブルに置かれた一枚の紙があった。
「....本棚の本から調べるのは時間掛かるどころじゃなさそうだな」
よっこいせとソファに腰を掛け............
お前人を駄目にするタイプのソファだな!?
ソファはベッドとタメをはるくらいに絶妙な柔らかさを誇っていた。
ここで寝たい。
暫くソファを堪能してから気を取り直し、テーブルの上に置かれた紙を手に取る。
異世界なのだし読みなれない単語が並んでいるかと思えば、そこには日本語が並んでいた。言語理解が働いているのかとも思ったが、本棚にある本の背表紙には知らないが自然と読める文字もあったので日本語なのは間違いないだろう。
「....こんにちは、次代の、...」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんにちは、次代の世界樹の精霊。
私は先代の世界樹の精霊を務めたイツキ。
いやはや、異世界転生に夢見てここに来たは良いけど来たばかりじゃ分からないことが多い種族に転生して困っているだろう?
私の場合先代が何も残さなかったせいで相当困ったからね、次代のキミが困らないように手紙を残したってわけだ。
まず、世界樹を通して森を扱うことを覚えた方がいいよ。
精霊術は難しく考えないで、例えば森の様子が見たいなら目を瞑って森を思い浮かべたり、世界樹の根を操りたいのなら根が動くことを想像すればいい。
簡単さ。
人間族はやれ魔力だなんだと言うけれど、世界樹と世界樹の精霊は一心同体。世界樹を動かすことに関しては自分の身体を動かすようにすればある程度のことは出来るからね。後は追々、ゆっくり覚えていけばいい。
次に、人族は信じない方がいい。
彼らがみんな悪だとは言わないけど私の世代では国の上層部がかなり腐ってたから、上手い話とか他種族の話とか戦争の話を出してきたら警戒した方がいいよ。
悪事に荷担させられるかもしれない。
判断に困ったら世界樹を信じるんだ。
最後に、世界樹の精霊は世界樹の一定範囲から出られないけど、ある程度力をつければ範囲も広がるし、仮初めの肉体を作ればわりと何処にだっていけるからそうなったら他の精霊に会いに行くといいよ。
他の精霊については書斎のどこかに本があるから適当に見つけてくれたまえ。
世界樹の書斎は世界の図書館。
私が世界から集めた大量の本と大量の資料が保管されているから、知りたいことができたら頑張って探せば必ず答えが見つかるよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
............
........
....
人族信じちゃ駄目なの...?
人を信じるなとは一番の衝撃だ。
まずこの世界にどれだけの種族がいるのか知らないが、人間は繁殖能力も高いのだしそれなりにはいるだろう。
しかもセイラの話から考えるに世界樹は人間の所有地にあるぽいし、これは中々ハードでは?
世界樹に関しては簡単そうなので安心したし、この量の本の中から一冊の本を探せと言うのは鬼畜の所業だと思うが一応ありがたいアドバイスだ。一応な。
本は明日。明日やるよ、きっとね。
ソファの背凭れに身体を沈ませ、瞼を閉じる。
何事もとりあえずやってみよう、だ。
頭の中に俺が目覚めた場所から見た森と、世界樹の上から見た風景を思い浮かべる。
世界樹の森、つまりは俺の森。
自分の一部を見渡すイメージで暫くの間うんうん唸っていると、
「...繋がった」
文字通り、電波や通信が繋がった時のように瞼の裏に広大な森が広がって映る。
えっ、めっちゃ広いじゃん。
拡大しようと思えば拡大するし、小さくしようと思えば小さくなる。世界樹をイメージすれば世界樹のある場所へと戻る。
なんちゃらアースみたいな機能だなこれ。
改めてみる世界樹はデカイ、何てものではなく森の奥の奥に見える山と並ぶくらいには大きい。
こんな大層な気の精霊ならそりゃあ強いでしょうや。
俺の中の期待値がぐんぐん上がっていく。
鼻歌混じりに獣道や謎果実が生る木などを拡大していると、一つ動く影を見つけた。
魔物!?魔物なの?!!ファンタジーの定番来ちゃう!???
そう思ったのも束の間、良く良く見ればそれは生物かすら怪しい灰色の毛玉。
かなり土で汚れているし、ところどころ赤黒く染まっているので怪我をしているのかもしれない。
助けた方がいい気がするが、助けに行ける距離じゃない。
結界の外だ、その場に行くことすら出来ないしなんならこの手で触れることも出来ないのではないだろうか。
考えた。
俺は考えた。
上司にクビを言い渡される寸前の言い訳を考えた時ぐらいに思考を回して、思い付いた。
世界樹操りゃ行けるんじゃね?
見たところ毛玉がもぞもぞしているのは結界の境界線から1kmあるかないか。対する世界樹パイセンは圧巻の巨木と図体に見合った根と垂れ下がる蔦を持っている。
行ける行ける、届く。多分。
手紙にあったように自分の身体を使うようなイメージで手を伸ばし、毛玉に触れるべく奮闘した。
するとどうだろう、世界樹に垂れ下がった蔦が延びて毛玉を掬うように抱き上げた。
ナイス蔦!ようやった!
帰りは慎重に運び、世界樹の根元へと毛玉を下ろす。
毛玉は獣だった。
土と血で汚れて分かりにくい毛色は多分銀色。
種類は分からないが狼の赤ちゃんっぽい。ふわふわかわいい。
じゃなくて、助けるために拾ったのだからここまで連れてきた責任をとらねば。
蔦を使って慎重に空洞の中へと運び込み、ベッドに寝かせる。
どうしよう、傷を治す薬とか持ってねぇんだけど。
どうしよう、どうしよう。
『....ユグよ、我の葉を一枚そやつに食べさせればよい。その程度の傷なら治る』
はい!?
思わず辺りを見回したが誰もいない。
というか脳に直接響いている気がする。
どちら様ですか(震え声)
『我は世界樹、この木の意思だ。世界樹は世界樹の精霊と一心同体だが世界樹本体に意思がないとは言っておらんだろう?....イツキも一言くらい我の存在を記しておけば良いものを』
あっ、なんかこの木からため息が聞こえた気がする。
『まぁ今は我のことはよい、それを助けたいのだろう?ならば早く我の葉を食べさせよ』
死にかけているから早くせねばすぐ死ぬぞ、と威厳のあるじいさん風の声が俺に指示をする。
慌てて世界樹の葉を蔦でもいで毛玉の口(とおぼしき場所)に細かくして入れていけば、段々と浅かった毛玉の呼吸は落ち着いていった。
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今日のまとめ
人族を信じずに世界樹を信じろ
毛玉拾った
謎の
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