第127話 小林泉という男④
オフィスに到着すると、ポウを真ん中に菅ちゃんとスタッフ数名が丸く頭を寄せていた。
「お疲れ様でした。雲の具合が良くなかったそうですね。」
僕に気付いて菅ちゃんが声をかけた。
「あぁ。色がなぁ…。どうしても駄目だった。」
顔はポウに向けたまま、菅ちゃんへと返した。
それまで丸いベッドに頭をつけていたポウが小さく頭を上げて僕を見る。
「待たせたな。ポウ。」
抱き上げると小さくゴロゴロを喉を鳴らした。
「ひとまわりもふたまわりも小さくなりましたね。」
菅ちゃんがポウを撫でながら僕に言った。
「そうだな…。ポウは人間でいうと90歳近いそうだ…。」
僕はしみじみとポウを見た。彼女との出会いがなければ、僕はこうしてここにはいなかった。
しみじみとした空間を打ち破ったのは、大きな足音と、豪快にドアを開く音だった。
「菅原さん!成功しまいしたよ!あゆみちゃんの手術!!」
豪快に開けたドアが壁にあたり鈍い音を立てて自分に戻って来るのを遮りながら、例の小林泉は、オフィスへと顔を出した。
菅ちゃんが小さく、しかししっかりとガッツポーズを決める。
「本当なのか?すごいぞ!やったぞ!」」
興奮する菅ちゃんに大きく頷いた後、彼は僕がいる事に気が付き、急にぴしりと姿勢を正した。
「いいんだ。気にしないで続けてくれ。」
僕を見て大きく頷いた菅ちゃんが、がさごそと机の引き出しをかき回しているのが見える。
「先生、この子です!」
溢れそうな涙を彼の目がかろうじて受けとめている。頬はまるで、少女の様に赤い。
「まだたった3歳の女の子です。アメリカでの心臓移植に最後の望みを…。先生!人の善意は、命すら救えます…。」
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