第125話 小林泉という男①
もう5年以上前の事だ。菅ちゃんがある男をオフィスに連れて来た事があった。
「小林と申します。」
顔は笑っていながらも、その瞳の奥に潜む鋭い視線に
「何かあるな。」
と直感にも似た警戒を覚えた事を今でも鮮明に覚えている。
以前にも話したが、僕と菅ちゃんには人に対して同じ様な感覚…というか直感を持っている。まぁ、それでもわからない時には、例によって真奈美にその人物との付き合い方を委ねていた訳だが。
この小林という男は、そういう意味では菅ちゃんと僕とのこの感覚が初めて違った男でもあった。
この小林という男と菅ちゃんとの出会いはこうであった。
菅ちゃんは、エイトナインが世に知れ渡り、また充分に会社として成り立つ様になると、ボランティアという形で世に貢献したいと考えた。それは時には寄付という形でもあり、僕を使った?講演会を開きその収益で海外の子供たちにワクチンを提供するという事でもあった。もちろんそれ以外の様々なボランティア活動も行っていたのだが。
会社のお金を使う事、そして時には僕を駆りだして講演を行いその講演料をボランティアの活動に充てる事を一度だけ菅ちゃんが僕に相談した事がある。
「常々そうできればと考えていた事です。僕の我儘を通してもよろしいでしょうか?」
それこそ僕が常々考えていた事でもあった。
右手を故障して以来、そして和葉監督との再会以来、僕は“いかに様々な人に支えられ今まで生きて来たか”、そしてこうして写真家としてこの世に存在できる為には、“いかに多くの人々が僕を支えてくれているのか”を身にしみて知り、いつしか僕も必ず「誰かを影で支える事ができる人間になりたい」と心から願っていたからだった。
いつか、いつの日にか誰かの役に立ちたい、力になりたいという想いは、実は僕の原動力でもあった。
「菅ちゃんが思う社会貢献をできる限りやってもらいたい。それは僕の願いでもあるから。」
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