第120話 賭け②
チャペルの中は多方向から入ってくるステンドグラスの光を反射し、そして交差していて、まるでここにいる僕ら全員の心の中を表しているかの様でもあった。
洋子はシスターに手を引かれ、静かにそのチャペルの中央へと歩んだ。その後ろには真奈美がぴたりと寄り添っている。
少し遅れて菅ちゃんがその後を追う形となった。
「どうぞ…。」
シスターに促され、洋子は静かに腰をおろした。彼女の目は、キリストのその姿にくぎづけになっている。
その姿を見たシスターが、洋子の背中に右手を乗せると、小さく微笑みながら二言、三言、言葉を掛けた。
「お一人にしましょう…。」
洋子の近くまで行こうとしていた僕に気付くと、シスターはそう声をかけた。
そして彼女が通路へと戻るべく進路を変えた時に、真奈美にも、こう問いかけた。
「あなたもここで、お話なさいますか?」
シスターは軽く頭を下げてキリストを見ると、ゆっくりと真奈美に身体を向き直した。
「私にはまだその準備ができていません。」
知らず知らずのうちに出た彼女自身の言葉に、真奈美は心底驚いている様であったが何よりも、自分自身にその言葉を言わしめた見えない大きな力に対して、恐れおののいている様でもあった。
僕達四人は、チャペルからドア一枚を隔てた小さな部屋で洋子を待つ事にした。
この小さな部屋には窓がなく、大きな丸い天窓からの明かりのみが僕達を照らしていた。
壁には例の十字架の便箋が所狭しと貼ってある。それは多分、ここにいる子供達が書いたと思われる手紙の様であったが、見てはいけないものの様な気がして僕はくるりと頭を一周させるとそのまま視線を落とした。
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