第119話 賭け①
今振り返ってみれば、この時僕や真奈美がとった行為は、ともすると菅ちゃんや洋子を永遠に失いかねない賭けだったに違いない。それでも僕は、いや真奈美も、この二人をどん底から救い出したいという一心だった。
僕らが「地の塩」に到着すると、シスター飯島は既に門の入口に立って僕らを待っていた。
僕は急いで車から降りるとシスターの元に駆け寄り、真奈美もそれに続いた。
「お待ちしておりました。あなたが真奈美さんですね?そして…。」
シスターは大きく目を開いて洋子に向ってほほ笑むと、
「あなたが洋子さんですね!」
と走り寄って洋子の両手を包み込んだ。
「どうぞ、お入り下さい。」
シスターは洋子の手を引くと、例の礼拝堂へと案内した。
シスターに手を引かれて戸惑いながらチャペルへと消えていく洋子を、菅ちゃんは小走りで追いかけた。僕のそばを通り抜ける時、彼は僕の肩を乱暴に掴み振り向かせた。
「先生は、僕と洋子のどこまでを彼女に話したのですか?僕らがその子を引き取るとでも?」
僕は彼の手を大きく振りほどいた。
「僕は君たちの何も話してはいない。知らない世界に怖気づくのは、君らしくもないな。」
菅ちゃんは立ち止まったまま、通り過ぎる僕を睨みつけた。
「僕が悪魔にでも見えるか?ならば君はそれ以下だ。愛する者にその現実も見せず、共に寄り添い苦難に立ち向かおうという勇気もない。見損なったぞ菅ちゃん。俺が生涯に渡って信じていこうと誓った男は、その程度の男だったのか?」
菅ちゃんは大きく肩で息をしながら、なおも僕の事を睨みつけた。
それを無視して、僕もチャペルへと足を踏み入れた。
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