第118話 道筋②

 「行き過ぎた事をしてしまったかな。」

 タクシーを拾おうと通りに出た僕たちは、どちらからともなく歩道に置かれているプランターの端に腰を下ろした。

「…どう、お答えすれば良いのでしょうか…」

 今までになく硬い顔で彼は僕を見る事なく答えた。

 ここ数日雨が降らないせいか、プランターの花々は、力なく首を垂れている。その大きな花びらを、ゆっくりと触ってみた。

 寂しい冷たさが心地よい。


 「会ってみては」という僕の提案の答えを、洋子は崩れ落ちる様にしゃがみ込むという行動で返した。その繊細な硝子細工の様な洋子の心も、その答えも、僕には…そして菅ちゃんもきっと…理解する事はできなかった。


 「嘘をついてでもいいから、明日洋子を連れ出す事はできないかな?」


 この時ばかりは、流石に菅ちゃんも不快感を示した。

 「彼女を騙してまでも、彼女をそこに連れて行く意味が一体どこにあるのでしょうか?先生がおっしゃった手助けがこれであれば、それはお断りさせて頂きます。」

 菅ちゃんには珍しく棘のある言い方だった。

 その物言いと態度ににムッとした僕は、正面を向いたまま言い放った。

 「だったら僕が洋子を連れ出すまでだ」

 そして、携帯電話を取り出すと例のシスターへと電話をかけた。ただ一言、

 「明日もう一度伺います。」と…。

 


 菅ちゃんの運転する車内は、一種異様な雰囲気に包まれていた。

 助手席に僕、後部座席に洋子が座っている。

 「駅のロータリーに車を止めてくれ。」

 僕の言葉に、ゆっくりと車は止まった。

 そして静かにドアが開くと、真奈美が後部座席へと滑りこんできた。

 洋子と菅ちゃんはそれに至極驚いたが、真奈美はまるで二人がそこに居ないかの様に振る舞うと、僕だけに軽く会釈をしてドアを閉めた。

 その彼女の態度に、菅ちゃんが鋭い眼をして、車を急発進させた。

 

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