第109話 手紙③

本来、当園に寄贈して頂いたものについては、個人的な所有を認めてはおりませんでしたが、あまりの嬉しさに、私を含むその場にいた職員全員が、知らず知らずのうちに頷いていました。

 その日以来、彼はその写真集を片時も手放しません。眠る時でさえ、彼はその本を抱きかかえているのです。その寝顔は、まるで彼が捨てられた母に抱かれている様で、心痛む様な、又彼がやっと安らぎを得た様な…。職員一同その様な気持ちで見守っております。

 先生はたくさんの写真集を出していらっしゃると伺いました。彼が毎日抱きかかえている本には、優しい象の顔が写っております。

 大変失礼ながら、私は世間とはかけ離れた生活をしており、先生の事はあまり存じ上げません。…が、しかし、毎年恒例の「手紙交換」の際、私どもが何もしなければ、彼は誰からも返事を受け取る事がないであろうという事が、どれほどの悲しみを彼に与えてしまうのだろうかと、そればかりを心配致しております。

 一方的なお手紙、心よりお詫び申し上げます。

 失礼を重ねますが、彼の手紙を同封させて頂きます。

 最後になりましたが、先生や先生を支えて下さる多くの方々の上に、神の御加護があります様、イエスキリストの御名を通してお祈りさせて頂きます。」

    

そしてそこには、4歳になった彼が書いた手紙が同封されていた。

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