第106話 もう一つの苦悩⑥

「洋子のその時の顔を見て、僕自身は彼女の意見には反対であるという事を即座に答える事はできませんでした。あれから2か月以上がたち、僕なりに考えて二人にとって最善の答えを探し続けていますが、僕にはどうしてもその答えが出せずにいます。そして…。僕自身、その答えを探し出していいものかとも思うのです。」

菅ちゃんは寂しそうに小さく笑った。

「先生。本当にご心配をおかけしました。洋子の事、今まで何の相談もせずに申し訳ありませんでした。」

そう言って立ち上がると、深々と頭を下げた。その姿は、悲しい程疲れきっていた。


「その答え探し、僕にも少し手伝わせてはくれないかな?」


菅ちゃんが驚いて僕の顔を見上げた。

「命にかえてもいいと常日頃想っている二人の事だ。僕も僕なりに君たちの力になりたい。…まぁ、力不足になってしまうかもしれないが、僕にも少しだけその答え探しに関わらせてはくれないか?」

菅ちゃんは僕の両手をしっかりと握りしめた。その手を彼は2,3度小さく揺り動かすと、声を殺して泣いた。その姿が、なぜかとおると重なった。


「大丈夫だ。きっと大丈夫だ、心配する事はない…。」

僕は彼の肩を強く抱きしめた。


その時、隣の部屋から菅ちゃんを呼ぶ真奈美の声が聞こえた。

途端に彼は立ち上がり、涙を拭った。

「行ってきます。」

彼は笑うと二人が待つその部屋へと入っていった。まるで今、ここで何事も起こらなかった様な顔をして。

隣の部屋では、クスクスと笑う菅ちゃんの声がする。

僕は2本目の煙草に火をつけると、自分自身に言い聞かせた。

「洋子と菅ちゃんは僕が守り抜く」と…。

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