第105話 もう一つの苦悩⑤

正直言って予想だにしなかった話の展開に、僕は非常に戸惑いを覚えて、言葉を発する事が出来なかった。

 

 「養子をもらうと言い出したんです。」

 僕ははっとして菅ちゃんを見た。

 「もう僕たちには子供が授からないであろうと解った時、由香里はこう言いました。」


 「伸治さん、昨日のニュースを見ましたか?小さな子供が虐待を受けて亡くなったそうです。先日は、まだ生まれて間もない子が、実の母の手によって捨てられ亡くなってしまいました。時々ふと思うの。神様はなんて不公平なのかと…。もしその子達が私の元に…私達の元に生まれてきてくれたら、私達はどんなにかその子を可愛がってあげれるのに…と。」

 

「洋子はそれから姿勢を正して言いました。」

 

「養子をもらいませんか?私には子供が授からないのであれば、私は今、寂しくてたまらない子供に幸せを与えてあげたい。あなたはきっと、思い上がった考えだと否定するかもしれないけれど、私なりに良く良く考えて出した結論なの。誰にだって幸せになる権利はあるわ。子供を持てない私達にも、そして親や環境に恵まれない子供達にも。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る