第103話 もう一つの苦悩③
「カチャリ」
ライターの音が必要以上に大きく響いた。僕にとっては実に二年以上ぶりの煙草だった。
煙草の煙を巻き込む様に、ゆっくりと時間だけが流れて行く。
「洋子には子供ができないそうです。」
それは唐突な彼の言葉だった。彼の目から、スルリと涙がこぼれ落ちるのが見えた。
「洋子には生まれながらに子宮に異常があるらしく、現代の医学をもっても、彼女が妊娠する可能性はゼロに近いそうです。」
僕はゆっくりと煙草の煙を吐き出した。
「結婚して1年半が過ち、すぐにでも子供が欲しかった僕たちはなかなか子供が授からないに事に疑問を抱きはじめていました。」
「産婦人科に行ってくるわ。」
「洋子がそう言った時、僕は軽い気持ちでそれに同意しました。一日でも早く子供が授かればいいとそれだけを考えて…。」
今までに見た事がない程疲れきった彼は、まるで映画のワンシーンを思い出すかの様に続けた。
「あの日家に帰ると、真っ暗な部屋に洋子がぽつんと座っていました。」
「伸治さんごめんなさい。私に問題があったみたい…。」
「洋子はそう言うと、机に顔を伏せて大声で泣き出してしまいました。」
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