第102話 もう一つの苦悩②

 隣の部屋からは、相変わらずクスクスと笑い声が漏れている。その声に安らぎを感じつつ、僕は菅ちゃんに水を向けた。

 「人は誰しも、語れる事のない事情をかかえているものだな。真奈美にあんな過去があったなんて、僕は今日の今日まで思ってもみなかった。でも、どうだろう?僕は今日、人という生き物を、心底愛しむべき存在だと思ったよ。人は喜びも悲しみも共有できる。そしてだからこそ、人は人として生きていけるんだ。

逆を言えば…、なぁ、菅ちゃん、人が人として生きていく為には、誰かの力が必要だという事だ。特に身近な誰かが苦しみもがいている時には、苦しみもまた、分け合わなければならないという事だ。」

 菅ちゃんはぴくりと動くと、僕の顔をまじまじと見た。

 「何か僕に話したい事があるんじゃないのか?」

 彼は身じろぎもせず、僕を見つめた。僕も彼から目をそらす事はなかった。

 「洋子を見てしまったんだ。」

 僕は、菅ちゃんが今買ってきたばかりの煙草に手を伸ばした。

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