第102話 もう一つの苦悩②
隣の部屋からは、相変わらずクスクスと笑い声が漏れている。その声に安らぎを感じつつ、僕は菅ちゃんに水を向けた。
「人は誰しも、語れる事のない事情をかかえているものだな。真奈美にあんな過去があったなんて、僕は今日の今日まで思ってもみなかった。でも、どうだろう?僕は今日、人という生き物を、心底愛しむべき存在だと思ったよ。人は喜びも悲しみも共有できる。そしてだからこそ、人は人として生きていけるんだ。
逆を言えば…、なぁ、菅ちゃん、人が人として生きていく為には、誰かの力が必要だという事だ。特に身近な誰かが苦しみもがいている時には、苦しみもまた、分け合わなければならないという事だ。」
菅ちゃんはぴくりと動くと、僕の顔をまじまじと見た。
「何か僕に話したい事があるんじゃないのか?」
彼は身じろぎもせず、僕を見つめた。僕も彼から目をそらす事はなかった。
「洋子を見てしまったんだ。」
僕は、菅ちゃんが今買ってきたばかりの煙草に手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます