第101話 もう一つの苦悩①

 隣の部屋からは、クスクスと笑い声が漏れている。それはまるで修学旅行生が、見回りの先生に見つからない様にこそこそと小さな声で話をしている様で、僕にはそれがとても心地よかった。

 「まるで姉弟の様ですね。今日出会ったばかりなのに…。」

 タバコを買いに出ていた菅ちゃんが、二人の様子を見て言った。

 「心を許しあうのに時間は関係ないのかもな。」

 僕はすぐにでも二人のクスクス写真を撮りたくてたまらない気持ちでいた。

 「今日はポウは大丈夫なんですか?」

 菅ちゃんが申し訳なさそうに聞いた。

 「あぁ。ありがとう。今日はいつもの病院に預かってもらう様、さっき電話しておいた。

菅ちゃんも知っているだろうが、ポウは僕が大変な時には決して僕を困らせたりはしない。だから今日は大丈夫だ。」

 最近は用を足す以外は立つ事さえままならないポウを想いながら、僕は自分自身を安心させる様に言った。

 「そうですね先生。その通りですね。」

 昨日で二週間やめていたはずのたばこをふかしながら、彼は答えた。

 「結局は辞められないな。」

 茶化す僕を尻目に、

 「先生は何をおっしゃっているんだか…。今日のたばこはいつものたばこと違います。お祝いのたばこです。セレブレーションのたばこです。」

 菅ちゃんは、これでもかという位に、ゆっくりと深く、美味しそうにタバコをふかした。

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