第98話 今日という日④

真奈美は驚いた様に由香里を見ていたが、次の瞬間、その場に座り込んで声を上げて泣き始めた。今までの、そう、全てをここで吐き出すかの様に、。

 僕はそんな真奈美が愛おしくて、愛おしくて思わず目を逸らした。

 由香里が驚いて僕を見たが、僕はそれにかまわずに、由香里を部屋の外まで連れ出した。

 「真奈美さん大丈夫ね?」

 心配する由香里に、

 「真奈美も随分と楽になったと思う…。これももしかしたら、とおるのお陰かもしれんな…。」

 状況が飲み込めないでいる由香里に

 「この話はまた後日な。ありがとう由香里。俺の方が、由香里に助けてもらってばかりだ。」

 と笑った。

 「何ば言いよるとね。」

 歩き出そうとする由香里に、僕は言った。

 「とおるによろしく伝えてくれな。まぁあいつの事だから、今日の一部始終を、きっとどこかで見ていただろうけど。」

 僕はそう言いながら、知らず知らずのうちに泣いている自分に気がついた。うれし泣きというのか…こんなに温かいと思える涙は初めてだった。

 小さくなっていく由香里を見ながら、僕は静かに考えていた。

 「人間とはいかにもろく、そしていかに優しく、強い存在なのか」を。

 “僕も由香里の様になれるだろうか?”

 ほんの一瞬頭をよぎった自分への問いかけに、僕は大きく首を振った。

 いつの間にか顔を出した太陽を眩しく見上げると、僕はオフィスへと戻った。


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