第97話 今日という日③
一瞬の沈黙の後、由香里は続けた。
「すぐる君、今日が何の日か覚えとるね?」
「とおるさんの命日たい。」
僕も達夫もハッとした。
「きっとあの人が、今日という日を私達にくれたとよね。今日という日に、達っちゃんに話ができて、おばさん良かったよ…。」
そしてはらりと涙を流した。
「とおる…。」
僕は、言葉にならない涙をこぼした。昔から、とおるはそういう男だった。こうやって、人に想いを残す男だった。
「そう言う訳で、命日に来てくれたお客さんが、私を待っとるたい。ごめんやけど、今日はこれで帰らせてもらうね。」
そして真奈美に向き合うと、さらに深々と頭を下げた。
「全く関係のないあなたに達っちゃんを助けて頂いて、そして怪我までさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした。明日必ず、改めてお詫びに伺わせて頂きます。」
そして再度、深々と頭を下げると、出口へと向かおうとした。
「由香里さん!」
真奈美の声に、由香里が足を止めた。
「由香里さん。教えて頂けませんか?どうすれば、人を許せるでしょうか?どうすれば、人を許して、全てを愛せる様になれるのでしょうか?」
僕たち3人は、真奈美の言葉に、目を伏せた。
由香里は、ゆっくりと振り返ると、こう言った。
「真奈美さん、あなたにも誰か許したい人がいるのですか?」
と。
真奈美はゆっくりと頷いた。
すると由香里は、からりと笑ってこう言った。
「心配せんで良か。誰かを“許したい”“愛したい”と思った時、もう真奈美さんは、その人を許しとるとよ。そして、もう誰かを愛せる様になっとるとよ。問題は、その事に…、真奈美さん、あなた自身が気付くかどうかたい。そして、それをあなたが受け入れられるかどうか、ただそれだけたい。」
そして、両手で真奈美の肩を優しく撫でた。
「頑張って…。きっと大丈夫。」
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