第93話 心の蓋⑨

「お飲物はいかがですか?」

 あるビジネスマンに声を掛けた時、私はそのまま動けなくなってしまいました。

 そこには、忘れもしない。あの男が雑誌を抱えて座っていました。「逃げなければ」と頭では何度も命令を出しているのに、頭と体がばらばらで…、私は結局その場に立ったまま、動けなくなってしまいました。

 「こんな所にいたとはなぁ」

 男はにやりと笑うと、私の手を引き寄せました。」


 真奈美は、口元に手を当ててガタガタと震えると、

 「もう駄目だと思いました。見つかってしまった以上、もうここにはいられないと。ここにはもう、私の居場所がなくなってしまったと。」


 「居場所」という言葉が、僕の胸にグサリと突き刺さった。


 「話したくなければもう話さなくてもいい…。」

 菅ちゃんが、真奈美の背中を優しく撫でた。


 「それからすぐに私は会社を辞めました。そして、これから先どうやって生きていけばいいのかが分からなくてうろうろと歩きまわっていた時、私は偶然エイトナインのアルバイトの張り紙を見つけました。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る