第79話 秘められた過去④
「先生、二年程前に、僕と真奈美とで小野寺さん主催のパーティに行ったのを覚えていらっしゃいますか?」
「ああ。」
監督の葬儀で会って以来、僕は彼の人柄に惚れ、彼とは公私共に深い付き合いをしている。彼の会社はその後軌道に乗り、70人を超える社員を抱える会社にまで成長していた。そして彼は世の中に貢献するという意味で、無償で彼の友人である各界の人々を招き、普段では知り合う事のない業種の人々との出会いの場を提供していた。菅ちゃんと真奈美が行ったのは、そのパーティの一つだった。
「そこには100名を超える方々がいらしていましたが、その中の一人が僕に話しかけてきました。彼は、北陸のある地方で染物問屋を営んでいるとの事でした。」
「染物」と聞いて、真奈美の肩がピクリと動くのが見えた。
「真奈美、本当に大丈夫なのか?」
菅ちゃんは彼女の顔をのぞき込む様に見た。
「続けて下さい。」
冷い声で、真奈美は答えた。
「彼は日本の美しい染物を世界に広げようと様々な企業と提携をしていて、なかでもフランスにおいては世界的に有名なデザイナーと手を組み、その世界では知らない人はいないという程の名の通った人物の様でした。僕に話かけてきたのは、彼の手がける新しい形の事業展開の一つに写真を使った染物を作りたいという相談の為でした。」
菅ちゃんは、話を止めると、再度真奈美を見つめた。
「しばらく彼と話をした後、彼が言いにくそうに話を切り出しました。」
「先ほど社長とお話されていた女性は、社長の会社の社員さんでしょうか?」
僕は会場から真奈美の姿を見つけると、「あぁ、雪野の事ですね」と話しました。
「あぁ、そうですか、やはり雪野さんでしたか…。」
彼はとても懐かしそうに、そして何ともいえない優しい目で真奈美を見つめていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます