第73話 心の闇③
「ガタン」
勢い良くドアが開くと、菅ちゃんが飛び込んできた。そして血だらけの部屋とそして僕と達夫を見て、彼らしくもなく、その場に立ちすくんでいた。
「とおるの保証人の息子だそうだ。」
寝ているのか起きているのかわからない様子の達夫を見て僕は言った。
菅ちゃんは、「うん」と小さく頷くと、二人が怪我をしていない事に気づき、
「誰が怪我をしたのですか?」
と聞いた。先ほどとは違い、既にエイトナインの責任者の顔になっている。
「真奈美だ。彼女には病院に行ってもらった。真奈美は大丈夫だ。スタッフにはここに戻らぬ様に真奈美が機転をきかせてくれた。」
菅ちゃんは僕の言葉を聴きながら、達夫の顔にじっと見入っていた。
「辛かったのでしょうね、彼も。」
菅ちゃんが、彼をいたわる様に小さく呟いた。
それから僕は、菅ちゃんに全てを話した。彼は、じっと床を見つめながら僕の話に聞き入っていたが、真奈美が達夫に「居場所」の話をしていたと話すと、ちらりと僕を見て、そして静かに目を伏せた。
「先生にお話しなければならない事があります。」
彼は、低く小さな声でささやいた。
その時、達夫が急に大声で叫ぶと、勢い良くソファーから起き上がった。そして僕達を見ると、へなへなとその場に座り込んでしまった。
僕達は、二人で達夫を抱き起こすと、ゆっくりとソファーに座らせた。
「場合によっては専門医の診察を受ける必要があるかもしれないですね。」
僕は小さく頷いた。
抱きあげられた達夫は、うつろな目で僕を見たが、彼のその瞳は、まるで遠い世界の何かを見ている様で、僕にはそれが、とてつもなく恐ろしく思えた。
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