第72話 心の闇②

「社長、お疲れ様です。事情は後ほど説明させて頂きますが、今すぐオフィスに御戻り下さい。はい。先生はここにいらっしゃいますが…。どれくらいで御戻りですか?わかりました。その様にお伝えします。」

 それから真奈美はそっと部屋のドアを開けると、

 「社長は20分程で戻られるそうです。これから病院に行って参ります。」

 と言うと頭を下げて部屋を後にした。

 その後姿を見つめながら、僕は真奈美のあの言葉を思い出していた。


 「きっとあなたの居場所が見つかるわ。」 


 今日の真奈美は、今まで僕が知っていたどの真奈美とも全く違った。

 「居場所…。」

 真奈美が小野瀬会長に言った「エイトナインは私の居場所です」という言葉。その時の菅ちゃんの涙。そして、真奈美が達夫に言った「あなたにも居場所がみつかる」という言葉…。

 真奈美も又、どこからか逃れる為に、居場所を探し続けていたのだろうか?

 僕は、目を閉じたまま大きく肩で息をしている達夫に歩み寄ると、優しく彼の頬をなでた。

 中学生という多感な時期に、背負いきれない程の真実を知った達夫の心境はいかばかりだっただろうか?尊敬してやまなかった両親が誰かを死に至らしめたという事実は、彼に何をもたらしてしまったのだろうか?僕の心も又、深い闇の中に迷い込んでしまった様だった。

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