第71話 心の闇①
どれくらい経ったのだろうか。それは1、2分の事だったかもしれないし、もしかするともっと長い時間だったかもしれない。とにかく僕は、真奈美の手から「ボトリ、ボトリ」と流れ落ちる血の音で我に返った。
「真奈美。大丈夫か?」
真奈美も又、僕のその声で我に返った様だった。
僕は真奈美に駆け寄ると、血だらけの手を自分に引き寄せた。両方の手のひらが、ぱっくりと大きく口を開けている。
「私は大丈夫です。」
真奈美は、僕の手を振り払うと、再度達夫に目を向けた。
「とにかく病院に行くんだ。後の事は僕に任せて…。」
真奈美は、もう一度達夫の方を振り向くと、改めて自分の両手を見つめた。そして僕の目をじっと見つめると、
「わかりました」
そう言うとオフィスに戻って行った。
僕は半分眠ってしまったかの様に倒れこんでいる達夫をどうにかソファーに運び込んで寝かせると、大きく息を吐いた。
改めて部屋を見まわせば、飛び散った血の跡が壁やテーブルに残り、床には所々、血だまりもできている。
「後の事は僕に任せろ」とは言ったものの、「スタッフがこの状況を見た時、僕は何と説明するのだろう?」とぼんやりと考えていた。そして僕は、何故だろう…、達夫がその事実を知るきっかけとなった例の写真集を本棚から取り出すと、その表紙をじっと眺めた。
「もしもし、真奈美です。お疲れさまです。」
ドアを隔てたオフィスから、いつもと変わらぬ真奈美の声が聞こえた。
「今日はこれから、オフィスで会議が開かれる事になりました。先生のご指示で、スタッフ全員、今日はオフィスに戻らずに直帰する様にとの事です。内々の大事な会議ですので、くれぐれもスタッフ全員に連絡漏れのない様お願いします。」
そして、再度受話器を取り上げる音がした。
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