第68話 嵐の始まり②

「あー。この写真ば撮った先生は、とおるさんの親友やったごたるね。中学時代、同じ野球部やったとげな。ほんに、男の友情ちゃ、良かもんたい。先生が由香里さんに色々と、力ば貸してくれんしゃって、由香里さんも、喜んどらっしゃったたい。ほんに、有難か事たい。」

 「それなら、吉村のおばさんの借金も、だいぶ楽になったとやろ?これで、父ちゃんも、母ちゃんも、少しは楽になるたいね。」


 「僕が物心ついた時から、父も母も昼夜寝ずに働いていました。ある時、僕は偶然、父が吉村のおばさんにお金を渡している所を見てしまいました。「何故吉村のおばさんにお金を渡す必要があるのか?」と父に聞くと、父は“亡くなった吉村のおじさんに、お父さんもお母さんもとてもお世話になったから”と答えました。僕にとって両親はとても尊敬できる存在でしたから、それを聞いた時、僕はますます二人を尊敬したのを覚えています

 それから僕は、僕も少しでも家の役に立ちたいと思い新聞配達を始めました。そのお金を吉村のおばさんに渡して欲しいと話した時、両親がぽろぽろと涙を流したのを昨日の事の様に覚えています。ですから僕は、先生が吉村のおばさんを助けて下さったと聞いた時、「これで父も母も、そして僕も、少しは楽な生活ができる」と、喜んで祖母の話を聞いた訳です。そしたら、祖母は急に険しい顔になりました。…そして、

 「達っちゃん、めっそうな事ば言うたらいかんよ。いくら先生のお力で借金がなくなったからて言うて、もともとは幹夫がこさえた借金たい。幹夫達がした事が終った訳じゃなか。一生かかったって、どげん償いばしたって、とおるさんが戻ってくる訳じゃなか。

達っちゃん、ばあちゃんはね、死んだら真先にとおるさんの所に行って、土下座して謝らないかんと思いよるとよ。息子のせいで、あんたば死なせてしもうて、由香里さんやら家族にも苦労ばかけてしもうて、ほんに申し訳なかったって…。」

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